瑞穂は毛筆生産で国内80%のシェアを持つ「筆の町」(広島県熊野町)にあり、化粧筆を原毛から最終製品まで一貫生産できる数少ない企業である。180年にわたる伝承技能に基づく筆造りは、天然毛の毛先を生かした手作りが特徴で、化粧筆製造ラインも工房的雰囲気の中で手作業と機械化とを巧みに組み合わせた10工程で構成されている。一方で筆造りの技能を生かした新製品の開発や、若い経営陣の語学力を生かしての積極的な海外市場展開もこの会社の活力と発展の源である。

 同社は1969年に、伝統工芸である熊野筆の毛筆造りの技能を応用して、化粧筆造りに事業を転換。年商3.7億円、従業員35人の会社となった(写真1、写真2)。尺田泰吏社長は3人の身内の役員にそろそろ経営をバトンタッチする時期に来ていると感じているが、その豊富な経験と勘を次世代の経営者に継承するには時間がかかると感じていた。その瑞穂を支援したのが、ITコーディネータの慶徳晴司氏である。

写真1●瑞穂の社屋
写真1●瑞穂の社屋
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写真2●瑞穂の製品例
写真2●瑞穂の製品例
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写真3●瑞穂の尺田泰吏社長
写真3●瑞穂の尺田泰吏社長
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 尺田社長と慶徳氏が最初に出会ったのは2011年のことである。中小企業の交流会で尺田社長は慶徳氏に、次世代の経営を担う身内3人の若い役員に引き合わせ「生産管理と在庫管理を合理化したいので支援をしてほしい」と真剣な顔で話した。慶徳氏は「経営基盤を、自信をもって継承したいという想いが伝わってきた」と振り返る。

 IT経営支援プロジェクトの1年目を終えた2012年には成果が表れた。社内のプロジェクトメンバーが参加したレビュー会の席で尺田社長は「どの事業の利益率が良くて、どの事業の利益貢献が大きいのか、今まで感覚では分かっていたが、数字で「見える」ようになった。IT導入の効果で今は「身の丈以上の服を着た状態」になることができたが、これからは服に合わせて身体を成長させていく。良いと思ったことには遠慮せずにどんどん挑戦していってほしい」と評価している(写真3)。