日産自動車の課題解決手法「V-up」の概要と特徴を紹介している。今回からは、日産のシステム部門がV-upを駆使して課題解決を行った事例を見ていくことにしたい。

 日産のシステム部門は、「グローバル情報システム本部」である。同本部の主な役割は、国内外の日産自動車グループ社員に対し、業務システムやITインフラなどを提供したり環境整備をしたりすることだ。社員が使う業務システムの開発も、社外のベンダーの協力も得ながら行っている。

 「グローバル市場占有率8%、売上高営業利益率8%」を目標とする日産の中期経営計画「日産パワー88」の下、グローバル情報システム本部は部門としての中期計画「VITESSE」を進めている。「部門横断型・地域横断型のソリューション」「システムのシンプル化」「生産性の向上」により、最小限の資源で最大価値のサービスを社員に提供しようとするのが狙いだ。

 日産のグローバル情報システム本部本部長の能丸実氏は、「V-upは、方法論というだけでなく、我々の組織にとっての文化、風土になっている」と話す。グローバル情報システム本部は、V-upをカスタマイズして「iV-up」と名付け、課題解決に駆使している。

DECIDEで合理的な予算立案方法を確立

 グローバル情報システム本部は、日産自動車の情報システム関連の予算を一括管理している。毎年、経営サイドの経理担当から予算ガイドを示され、一方で各部門からの「こういうシステムを導入したい」という要求を聞いて、調整しながら最終的な予算の割り振りを決めていた。

 「様々な部門からの要求に応えなければならないなかで、経営側からはコスト削減を言われる。グローバル情報システム本部はうちの部門に投資してくれない、といった不満も出ていた」。能丸氏は、かつての状況をこう語る。

写真●日産自動車のグローバル情報システム本部の中核メンバー。右から順に、中村武昭氏、小泉博章氏、能丸実氏、森則雄氏、坂倉康正氏
写真●日産自動車のグローバル情報システム本部のV-up推進メンバー。右から順に、中村武昭氏、小泉博章氏、能丸実氏、森則雄氏、坂倉康正氏
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 そこで、V-upのプログラムの1つである、DECIDEによる課題解決が図られた。この課題解決に携わったグローバル情報システム本部IS企画統括部主担の小泉博章氏は、「私たちシステム部門が統一的な視点で、社内システムの利用者である各部門の合意を得た上で、経営者に予算計画を説明するための方法を作った」と話す。

 標準的なDECIDEのプロセスは、「課題定義と効果予想 → チーム編成 → 現状把握 → 根本要因特定 → 改善策策定 → 方策の展開・実行 → 改善効果の確認」という流れだ(図1)。中でも「現状把握 → 根本要因特定 → 改善策策定」の方策立案段階に時間をかける。週に一度など、課題解決メンバーが定期的に集まる。またその間には、実際の利用者の声(VOC:Voice Of Customer)を収集するなどの“宿題”もある。

図1●DECIDEのプロセスと課題解決チームの構成(資料提供:日産自動車)
図1●DECIDEのプロセスと課題解決チームの構成
(資料提供:日産自動車)
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