唐突ですが、そば屋の発祥の地がどこかご存知でしょうか。これには諸説がありますが、岩崎信也氏の「蕎麦屋の系図」によりますと、現在営業している老舗そば屋のなかで、最も長い歴史を持つ暖簾の砂場のルーツは、現在の大阪市西区新町二丁目だそうです。大阪府の熊取町のWebサイトに説明が出ています。

図1●江戸時代の大きなそば屋(「摂津名所図会」より)
図1●江戸時代の大きなそば屋(「摂津名所図会」より)
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 その中に摂津名所図会に描かれている江戸時代のそば屋の絵があります(図1)。その絵を見ていただくと、店内の規模もさることながら、上部に描かれている醤油蔵や蕎麦蔵まで含めると、巨大なそば屋であったことが分かります。

あなたがそば屋の経営者だとしたら

 読者の皆さんがこの大店の経営者だとしたら、レジを含めて、電子的な手段が全くない環境下で、どう運営していきますか。時にはこんなことを考えてみると面白い頭の体操になると思います。本欄読者の多くは企業の情報システム担当者、あるいはIT企業のエンジニアの方でしょう。発注者と受注者という立場は異なっても、情報システムの設計にかかわりますから、共にシステムエンジニア(SE)だと言えます。

 それではSEとして、そば屋の情報システムをどう設計しますか。いきなり設計するのは無理ですから、まずそば屋の現状の全体像を把握しなければなりません。それから、そば屋の業務改革を検討し、新しい全体像を描いてから情報システムを設計することになります。

 業務改革とそれを支える情報システム開発を同時に成功させる鍵は「あるべきビジネス」の姿を把握することです。目指すビジネスの構造を明らかにできれば、業務改革のシナリオが書け、必要な情報システムを設計していけます。

 そのための有力な手法として「コンセプチュアルデータモデリング」があります。概念データモデリングとも言います。本連載では、そば屋の例を使いながら、この手法を解説していきます。コンセプチュアルデータモデリングというと何やらややこしい印象を与えるかもしれません。企業のビジネス(対象領域での活動)を構成する「もの」と「こと」に着目し、「もの」と「こと」の関係をデータ(情報)の構造として表現する。これが定義です。