橋下大阪市長が辞任、再出馬する。市議会の既成政党は「候補者は出さない」という。マスコミは双方に対し批判的だ。橋下氏には、「(どうせ再選されるなら)6億円もかけて選挙するのは無駄」「市長選をしても議会の勢力図は変わらない」と批判する。既成政党に対しては「候補者を立てずにアンチ橋下を主張するのは不見識」「不戦敗を認めるなら橋下と協議しろ」という。

(編集部注)本記事はメールマガジン「日経BPガバメントテクノロジー・メール」2014年3月10日配信号に掲載した記事を転載したものである

なぜ、もめる?

 全国を見渡すと、首長が改革の是非を住民に問うために辞職、再選を目指す事例は多くない(基地問題の沖縄、名古屋市の河村市長など少数)。議会とは是々非々の協議で実をとったほうがいい。議会も首長が再選復活すると立場が弱くなる。だから、ふつうはそこまでいかない。

 しかし大阪市では2005年、前任の関市長も同じ手法で改革に対する議会の反発を退けた。それでもその次の2007年の選挙では、労組の支援を受けた平松市長が選ばれ、地下鉄民営化などの改革案を掲げた関氏は敗れた。

 なぜ、こうも大阪市議会は市長と対立するのか。また、なぜ大阪では、抜本改革を切望する市長が出現し激しく既存政党と対立するのか? さらに、大阪都構想はそれほど重要なものなのか? 答えは単純ではない。しかし私は大阪生まれの大阪育ち。加えて2005年以降、府の特別顧問、市の改革会議の委員長や特別顧問を歴任してきた。それらの経験、そして地元の人たちとの対話から得た私的な仮説を紹介したい。

わずかな票で当選

 大阪市の改革が進まない原因はいろいろある。そのひとつは、市議会の選挙区が24の中選挙区に分かれていることだろう。都構想では24の区を5区に集約するという。つまり都構想とは選挙区改革そのものである。既存政党の激しい反発はこの辺に由来する。

 大阪市の各区の人口は、最小の区で約6万人強、最大の区で約20万人弱である。それに対して議員は各区で2人から6人選ばれる。一部の区では、わずか4000票ほどで当選する。大阪市は大都会であるにもかかわらず、区民のごく一部の支持を得ただけで当選できる珍しい自治体である。となると当落線上の候補者は、特定団体や地元の有力者の支持で票を固めて当選しようとする。

 そんな彼らにとっては、都構想で選挙区が集約されるのは不安だろう。なぜなら市議会がなくなり府議会と統合されると、市議枠の定数は減るだろう。おまけに大阪維新の会は、府議会の定数を強行採決してまで2割削減した。そんな連中に選挙区の設計を任せるわけにはいかない。そして区長と区議会が公選で選ばれるとなると、地元への利益配分の仕事がなくなる。

 かくして既存政党は、自民党から共産党までがこぞって都構想に反対する。しかし行政改革や二重行政の打破を掲げた都構想の目的には大義がある。頭ごなしに否定はできない。そこで「もう少し検討しよう」「そのうち橋下はいなくなるに違いない」---。ざっとこんなところが既存政党の本音ではないか。

なんでも反対?

 ところで市議会の既成政党は、都構想については、時間切れ作戦(牛歩戦術)を展開するほか、主な改革案件にも、最近は軒並み反対している。たとえば、 (1)地下鉄民営化
(2)バスの合理化、民営化
(3)市立病院の独立行政法人化
(4)大阪府立大学と大阪市立大学の統合と再編
(5)府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の統合と再編
(6)水道民営化
などが代表事例である。

 要するに、「民間に仕事を委ね、公務員を減らす」「大阪府と大阪市の重複する仕事を統合して再編合理化する」といった抜本改革にはすべて反対である。となると「今の大阪市役所の組織を守りたい」「府との事業の再編なんてまっぴらごめん」というスタンスかと市民から批判されても致し方ないだろう。

 彼らにしてみれば、大阪市の組織が小さくなり、あるいは民営化されて市役所とは別の法人になると個別の事業や予算に口出しする余地が小さくなる。地元支持者から見てわかりやすい地下鉄、バス、病院などのサービスのあり方も議員の手の届かないところにいってしまうという焦りがあるのではないか。そうした気持ちはわからなくもない。しかし大義の前にはそうした私心を捨ててこそ議員ではないか。