「素晴らしいご提案ですね」と、ある製造業のシステム部長は唸った。その企業はグローバル展開の強化に向けて、SCM(サプライチェーン管理)関連で新たなシステムを導入しようとしていた。この分野でのシステム構築に多くの実績があるSIerに提案を依頼したところ、このSIerはまさに唸るような提案を出してきたのだ・・・。

 あらかじめ断っておく、これから始まる“悲劇”は実話ではない。ただし架空の話でもない。複数のITベンダーの営業担当者やユーザー企業のシステム部長らから聞いた話を基に組み立てたストーリーである。だが、ここまで劇的な展開ではないとしても、特に大企業がやってしまう“人でなしの所業”とその結果生じるトラブルには思い当たる読者も多いはずだ。

 さて、この製造業のシステム部長がSIerの提案を評価したのは、単にその内容が素晴らしいからだけではなかった。彼らが2カ月かけて経営層や事業部門に対して行ったヒアリングが好評だったのだ。システム部長は役員や事業部門のキーパーソンをSIerに紹介したが、ヒアリングにやって来た技術者の質問が極めて的確で、自分たちが気付いていなかった課題も浮かび上がらせてくれたからだ。

 それもそのはずである。そのSIerは、世界的に名を知られたこの製造業の案件を飛躍のきっかにしようと考え、提案活動に社内で屈指のエース技術者を投入したのだ。提案書には、これまでの経験や知見、ノウハウを基に様々な課題に対する解決策を過不足なく盛り込んだ。契約後に詰めなければいけない箇所が残っているとはいえ、見積額の妥当性も明確だった。

 そのようなわけなので、この製造業ではシステム部長をはじめとするIT部門、そして事業部門の幹部なども提案を高く評価した。システム部長は「この提案に費やしたご苦労を考えると頭が下がる思いだ。もちろん御社に発注させていただくよ」とSIerの営業担当者らに語った。だが、その後、異変が起こる。