全日本空輸の幸重孝典上席執行役員業務プロセス改革室長とITリサーチ最大手、ガートナー ジャパンの日高信彦代表取締役社長が経営革新について語り合う対談の後編をお届けする(前編は『客室乗務員全員にiPadを配ったわけ』参照)。

 世界で初めてUNIXサーバー上で基幹システムを稼動、インドのIT(情報技術)会社にシステム開発を委託など、ANAは挑戦を続けている。

 幸重室長は「新しい取り組みにはどうしてもトラブルがついてまわる。そういうピンチの時こそ、チャンスに切り替えていく姿勢をとり続けた」と語る。

(構成は谷島宣之=日経BPビジョナリー経営研究所研究員
中村建助=ITpro編集長)


日高:航空業界の大きな変化が続き、ITの重要性が増す中で、国内線を支える基幹システムを今年2月16日に全面刷新されました。

 メインフレームで動かしてきたシステムを止め、新しくUNIXサーバー上で新システムを動かした。世界に先駆けた試みと伺っています。刷新の狙い、ご苦労をお聞かせください。

幸重孝典・全日本空輸 上席執行役員 業務プロセス改革室長(右)と日高信彦・ ガートナー ジャパン 代表取締役社長
幸重孝典・全日本空輸 上席執行役員 業務プロセス改革室長(右)と日高信彦・ ガートナー ジャパン 代表取締役社長(写真:的野 弘路、以下同)

幸重:世界に先駆けた、というのは結果としてそうですが、もともと計画した段階では世界で2番目の予定だったのです。米ユニシスがUNIXサーバー向けに開発したエアライン用パッケージソフトウエアを使ったのですが、我々より先に欧州の航空会社が動かすことになっていました。

 我々としても最初というのは少々リスキーだ、二番手ぐらいがちょうどいいと思っていました。ところが開発の途中で欧州の航空会社がビジネスモデルの変更もあってエアラインシステムは構築しないという判断を下し、結果的に私どもがファーストランナーになりました。

 なぜ全面刷新したかと言うと、私どもが使ってきたメインフレーム上のシステムがすっかり古くなってしまったからです。刷新して、処理のスピードと柔軟性を高め、しかもコストダウンをしようというのが狙いでした。

 なにしろ原形は私が会社に入った年、もう34年前に導入したものです。途中で1度バージョンアップしたものの、それから25年も使い続けたシステムでしたので、使っている技術は古いし、ソフトの構造がいわゆるスパゲティ状態になってしまい、修整が困難になっていました。

 旧システムを一緒に作ってきた日本ユニシス様から新しいパッケージソフトの提案があり、採用したのです。プロジェクトの開始段階から、日本側で日本ユニシス、サーバーを担当した日本ヒューレット・パッカード(HP)、データベースソフトウエアを担当した日本オラクルがコンソーシアムを組んで、サポートして頂きました。

 難しさから言うと、世界に先駆けてという点のほかにもう一つありました。航空会社の宿命なのですけれど、全面的なシステムの切り替えを一晩で済ませなければならない、ということです。厳密には4時間半でした。しかも4時間半後から直ちに通常のフルオペレーションに戻ります。

4時間半で切り替え、直ちにフルオペレーション

日高:元エンジニアから言わせていただくととうていあり得ないスケジュールです。

幸重:今回のシステム移行に関して経営陣からビジネスへ極力影響を与えないでほしいという強いリクエストがありました。前日の午後11時50分に旧システムを利用する最終便が飛び、そこから切り替えに入ります。翌日の最初の便に合わせようとすると、空港の窓口を開ける午前4時30分までに新システムを動かさないといけなかったのです。

 運航を少し休むという手もあったわけですが、休むとその分、収入が無くなってしまいます。世界の航空会社を見ると丸1日運航を休んだり、オペレーションの規模を通常の半分ぐらいに減らしたりして切り替えた例がありましたが、我々はチャレンジしたということです。

日高:経営陣のチャレンジも、それを平然と受ける幸重さんのリーダーシップもすごいですね。