これまで、ももいろクローバーZとAKB48について、ITサービスのキーワードを使って比較してきた。第4回は、少し遠回りをしつつ、この両グループが示した新しい消費の顕在化を、現在のITサービスの成功例に相対させてみていく。アイドルファンたちが、なぜ大衆的な消費からズレていくのか? 彼らはアイドルに何を求めているのか? その根本にあるものについて掘り下げて論じてみる。


2013年10月9日、「ITpro EXPO 2013」に登場したももいろクローバーZ
2013年10月9日、「ITpro EXPO 2013」に登場したももいろクローバーZ
(撮影:後藤究)
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 ITサービスにおいては、今やプロシューマーによる「隠れた経済活動」や「影の文化経済」なくしては成り立たないと言っても過言ではないだろう。こうした消費者側の経済活動をいかに取り込んでいくかは、まさにITサービスの未来可能性の生命線といっていいだろう。

 一方で、ITサービスの発達、とりわけSNSの出現によって、個々の消費者はプロシューマーとしてネット上で連帯している。企業は連帯した消費者の、いわば“消費者組合”を相手にビジネスをしているといった現状といえる。これは企業側にとって大きなチャンスにも障壁にもなり得るものだろう。

事業に消費者を参加させる「エンゲージメント」

 ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』(紀伊國屋書店)によれば、テレビの時代には、消費者は個室のなかに隔離されて連帯がなかった。それが現在では、ITサービスのなかでいつの間にか消費者、ユーザー、視聴者が連帯し大きな存在として発言力を持つに至った。まるで前世紀において資本が労働組合と対峙したように、今世紀の企業は連帯した消費者と対峙することを余儀なくされているようだ。

 前世紀、近代化が進む社会のなかで、生産活動から疎外されていった労働者は組合をつくることで資本家と対峙した。疎外された労働者とは、自分がなにを生産しているかさえ不明で、生産の意味を奪われ機械として労働することを強いられた労働者だ。マルクスは、こうして疎外された労働階級(プロレタリアート)に連帯を訴え、世界的な共産運動の礎となった。そして今世紀、ポスト近代とも成熟社会ともいわれる時代のなかで、消費活動から疎外されていた消費者がインターネットを介して連携しつつあるのは、歴史の繰り返しのようにみえる。