先日、大阪府市が合同で運営してきた医療戦略会議の最終提言をまとめた(大阪府市医療戦略会議 提言)。医療関連の政策検討委員会の座長は初めてだったが、松井知事から“業界外”の視点で成長産業の視点からも見てほしいと言われ、勉強しながら何とかまとめた。作業を終えてみるとずいぶんチャンスの大きな業界だと気がついた。

コスト増のリスクをビジネス戦略に転換する

 今回は、最終的に大阪の官民が連携して全部で7つの戦略を実施すべきと提言したが、医療には一見すると矛盾する戦略目標が多数ある。そのため当初は整理に苦労した。

 まず医療の性格だが、人命を助ける重要な社会サービスであり、コストや収益が先に立つものではない(典型が“赤ひげ”先生や医の倫理論)。しかし現実には公的資金の投入には限度があり、医療機関も民営だから利益を出さずにやっていけない。効率化や競争と無縁でありえない。また医療コストは抑制すべき対象である。

 ところが医療は成長産業でもある。医薬品や再生医療の技術革新も進む。GDP(国内総生産)拡大、経済政策という意味では限られた期待分野である。

 したがってここにジレンマが生まれる。医療の充実と発展は、個人の健康長寿に貢献し、経済的にも成長の糧となる。しかし財政的には負担増の原因であり、財源不足を招くリスクでもある。

 となると理想は、予防あるいは先制医療の充実である。予防産業、つまり運動、睡眠、食事の充実や検査など健康保険や公的負担が生じない前段階のサービス系の産業を育てる。それが新しい産業となり、健康寿命を延ばして医療費の抑制にもつながる。そして病院などの医療資源と公的資金は、より重度、高度の医療に振り向けていく。それと同時に医療機関の生産性も上げていく。そのためには規模の集約や経営スキルの高度化、在宅診療などの新しいサービスを充実させる。