“素人部長”が全体観を持てる本

 書名に「Webの作り方」、副題に「選抜総選挙の舞台裏」とあり、表紙はイラスト、どうみてもCIOや情報システム部長向けの本ではない。巻頭には「エンジニア向けの実用書」と記され、対象読者は「若手エンジニアやエンジニア志望の方」だと書かれている。それでも情報システムに責任を持つ幹部、特にITの実務経験を持たない“素人”の方々に本書をお薦めしたい。

 その理由は情報システムの設計・開発・テスト・運用の全体を把握できるからだ。実際、「選抜総選挙シリアルナンバー投票システム」の開発・運用を担った著者5人は「構築や運用」の「全体観を知りたい」人に向けて、実例に基づき「勘所や留意点を余さず具体的に解説」し、「プロジェクトを全体に渡ってつかめるように」したと述べている。全体の枠組みと細部の具体例を要領良くまとめるのは簡単ではないが、本書はわずか200ページの中に両方をうまく収めている。

 1章と2章、そして6章を読めば本書の題材になったプロジェクトがどのようなものか俯瞰できる。続く3章(システム構成)、4章(テスト)は専門用語が満載で、CIOや部長にとって辛いだろうが、とにかくページを順にめくってほしい。システムの安定稼働に気を揉んでいるCIOや部長であれば5章(運用)は必読である。

 3章から5章にかけて掲載されている、コマンド実行画面、設定ファイル記述、ソースコード、テストケース、要件とシステム仕様、トラフィックや監視アラート数の推移グラフなどを見れば、現場で端末に向かっている技術者たちが、複雑かつ広大な世界で奮闘していることが多少なりとも分かってくる。50点近いイラストもしっかり眺めてほしい。システムがどう動いているのか、感じ取れるのではないか。

 最後のページまでめくり終えたCIOや部長は、システムの開発や運用が「決して機器を相手にしている業務ではない」ことを実感するに違いない。

 発注者との折衝など、開発・運用チームの外の様子も書いてくれるとさらに良かった。プロジェクトマネジャーを務めた営業担当者は「度重なるプレッシャー」を技術陣にかけたそうだが、執筆はしていない。ただし「エンジニアもプロジェクトマネジメントに積極的にチャレンジ」してほしいという主旨から、2章の末尾にプロジェクト計画に関する記述がある。

過負荷に耐えるWebの作り方


過負荷に耐えるWebの作り方
パイプドビッツ 著
技術評論社発行
2604円(税込)