最近、ITを活用して新ビジネスの創出や既存事業のビジネスモデルの変革などに取り組む企業が増えてきた。まさに企業はビジネスイノベーションに資するITを軸に、今後のIT投資を考えていかなければならない。だが、こうした新しい試みに対しては、どの企業でも社内の抵抗勢力が必ず立ちふさがる。ビジネスイノベーションに取り組む人から、その際たるものと目されているのは、もちろん我らがIT部門である。

 こう書くと、多くのIT部門の人、特に若手の技術者から「レッテル貼りはやめてくれ。我々も新しいことに挑戦したいと思っている」という正当な抗議が来そうである。確かにその通り。「強力なIT部門であればあるほど、そのIT部門は巨大な抵抗勢力に支配されている」と言い換えたほうがよい。そして、この抵抗勢力は再生産され続けており、どんな進取の精神に富む若き技術者でも油断すると、簡単に抵抗勢力の一員になってしまう。

 では、その抵抗勢力とは誰か。何のことはない、各業務システムを運用や保守を担当する技術者である。またまた抗議が来そうである。先回りして言っておけば、一部の企業には、抵抗勢力どころかイノベーションの先頭に立つような担当者がいる。だが大半の企業、特に大企業では、実はほとんどの運用保守担当者が本人も気づかぬうちに“保守反動の権化”と化しているのだ。

属人化と減点主義が諸悪の根源

 IT部門に配属されたやる気満々の若者がやがて抵抗勢力と化すメカニズムはこうだ。例えばメガバンクや大手生損保などの金融機関では、特定の業務システムを特定の技術者に長く担当させる。システムが極めてミッションクリティカルなので、それぞれの業務を知り尽くした技術者に面倒を見てもらったほうが、CIO(最高情報責任者)やシステム部長など上層部が安心できるからだ。

 かくして担当した時には紅顔の青年だった技術者は、頭に白いものが混ざるまで長く同じ業務システムの運用保守を担当し続けることになる。しかも、その間の人事評価は基本的に減点主義だ。システムは動いて当たり前。IT部門の技術者はよくITベンダーに「システム可用性は99.99%なければダメ」などと厳しいことを言うが、経営層や事業部門はもっと厳しい。100%でなければダメに決まっているのである。