情報システムのトラブルが原因で列車や飛行機の運航が乱れた場合、新聞やテレビは大きく報道する。報道を見聞きした社長が不安に思い、「情報システムのトラブルは増えているのか」と聞いてくる可能性は大いにある。

 情報システムを預かるものにとって、あまり触れてほしくない話題だが、忙しい社長がわざわざ声をかけてくれるのだからチャンスと受け止めるしかない。システムを巡るトラブルについて、社長に代表されるITの“非専門家”の疑問に、ITのプロフェッショナルが答えるには事前の準備が欠かせない。

 前回前々回と同様に、典型的な質問と回答の例を紹介する。社長との対話内容を考える材料としてお読みいただければと思う。

情報システムが止まってしまい、業務まで滞ったというトラブルの報道をしばしば見聞きする。トラブルは増えているのかね。

 「システムのトラブルに関する統計データはほとんどありませんので、トラブルが増えているか、減っているか正確なところは分かりません。ただ、新聞やテレビといったマスメディアが昔では考えられなかったくらい大きなニュースとして、システムのトラブルを報道するようになりました。このため、トラブルが増えているように見えるのではないでしょうか」。

 情報システムやITのプロフェッショナルとしては、以上のように答えたいところだ。それほど大きな実害を与えたわけではないシステムトラブルがテレビのニュース番組で取り上げられたり、新聞の一面に掲載される。金融機関のシステム統合にいたっては、テレビや新聞の記者が統合初日に銀行のATM(現金自動預け払い機)コーナーへ押しかける。 

 ただし「騒ぎ過ぎです」と正直に社長に言うのは得策ではない。マスメディアが情報システムのトラブルを大きく取り上げるのは事実であるとしても、ITのプロフェッショナルとして社長にそう指摘すると、言い訳に聞こえかねない。

 そこで「システムのトラブルに関する統計データはほとんどありません。とはいえ、全面的にシステムが停止する大規模なトラブルは減っているようです」と答えてみてはどうだろうか。トラブルが減っているのは良いことで社長は「なぜ減っているのか」とさらに聞いてくる。それに対する答えはこうだ。

 「システムを動かしている運用担当者が頑張り、トラブルが起きた際、直ちに対処しているからです。このため一瞬停止したとしても、業務に悪影響を与える前にシステムを復旧できているのです」。