「ルーティング」は、ネットワークの重要な技術の一つだ。そこで最初に、「ルーティングとはどんな概念か」を大まかに掴むために、例え話から始めよう。

周囲の状況を把握して道を作る

 インターネットイニシアティブ ネットワーク本部 ネットワークサービス部 技術開発課 シニアエンジニアの松崎 吉伸(まつざき よしのぶ)氏は、「子どもの頃、砂場で道を作ったり、トンネルを掘って水を流してみたりしたことがあるでしょう。砂場で道を作るのがルーティング、その道を流れる水がパケットというイメージですね」と説明する。

 つまりルーティングとは、送信元から宛先まで、データ(水)を最適な経路(道やトンネル)に通すためにネットワーク側で行う準備を指す。データを滞りなく流すためには、道が向かっている方向が適切か、十分な幅や深さを持っているか、大量の水を流す人がどこにいるかなど、周囲の状況をよく把握して、道の構成をそれに合わせておくことが重要になる。

 この特集では、現在もっとも広く使われているIPをベースにしたルーティングを前提に説明する。ルーティングの基礎、各種プロトコルの仕組みを順番に見ていく。

 現在のIPネットワークの多くは、ルーティングを行う機器であるルーターや端末(ホスト)が多数つながってできている。だが、もし1つのネットワーク内で完結してしまう通信なら、ルーティングのような仕組みは必要ない。例えば1台のLANスイッチにすべての端末がつながっている、非常に小規模な環境を考えてみよう(図1の左)。全端末はLANスイッチと直結しているため、ある端末宛てにパケットを転送する経路は1つしかない。

図1●ルーティングが必要なわけ
図1●ルーティングが必要なわけ
小規模なネットワークで、すべての機器が1つのネットワーク上に存在する場合は、機器に向けて直接パケットを送ればよい。複数のネットワークをつないで大規模化していくと、宛先IPアドレスに応じて最適な経路を求める仕組みが必要になる。
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