IT投資に極めてシビアな判断する大手金融機関の経営者がいる。業務改革担当役員だった時、CIO(最高情報責任者)が推進していた100億円単位の大規模システム構築プロジェクトを、「カネの無駄遣い」と徹底批判して木っ端微塵にした“戦歴”を持つ人だ。経営トップになった今も、IT部門が上げてくるシステム化計画案を片っ端からリジェクトする。少し前に取材する機会があったので、その理由を聞いてみた。

 「だって、それで人が減るわけじゃないからね。IT部門はいろいろと数字を作って、業務改革につながると言うが、私から言わせると全部ウソ」。返ってきた答えを聞いて、私は感心してしまった。日本企業のこれまでのIT投資の誤謬を、見事に言い当てているからだ。この経営者がリジェクトするのは、売り上げを作るためのITではなく、効率化のためのITの案件だ。実際、ほとんどの日本企業では、IT投資による効率化は全くできていないに等しいのだ。

 はっきり言ってしまえば、日本企業の情報化は「ITによる業務改革」と「システム内製化による競争優位」という、本来できるはずもない“絵空事”を理想として推進されてきた。少なくとも企業活動においては、目指すべき理想とは実現可能な目標でなければならない。それなのに、絶対にできないことを目指したために、多くの情報システムが効率化に資するどころか足を引っ張る存在になるとともに、IT部門の“無用の長物”化と日本のIT産業の“SIガラパゴス”化を引き起こしてしまった。

 なぜ、この二つが絶対にできないのかと言うと、日本企業は容易には人を切れないからだ。つまり日本の雇用慣行が問題の根っこにある。いわゆる終身雇用制が日本企業の前提なのに、現場の従業員からCEO(最高経営責任者)に至るまで3~5年で入れ替わる米国企業の流儀を取り入れようとしたため、いろんなところがおかしくなってしまったのだ。

 これまでも、この「極言暴論」などの私の記事中で多少触れてはきたが、今回はこの問題について正面から“暴論”しておくことにする。