IEEE 802.11nは現在主流の無線LAN規格である。2.4GHz帯と5GHz帯の両方をサポートする。規格上は最大600Mビット/秒だが、国内で販売されている製品では450Mビット/秒のものが最も速い(2012年3月末時点)。11nには多くの高速化技術が規定されており、コストとのバランスで450Mビット/秒までがリーズナブルな価格で提供可能と判断されているためだ。

 11nは最大600Mビット/秒という規格上の速度ばかりが注目されがちだが、「スループットの向上」を図った点がこれまでと大きく異なる。スループットとは、通信手順で発生するオーバーヘッドも含めた実際の通信で得られる速度のこと。実効速度とも呼ばれる。11nの標準化では、スループットで100Mビット/秒を超えることを目指した。100Mビット/秒という数字は、100Mイーサネット(100BASE-TX)を意識したものだ。

 11nの高速化技術に詳しい芝浦工業大学 工学部 通信工学科 教授の久保田 周治氏は「標準化当時は既に、スループットと規格上の速度との乖離が問題になっていた。そこで物理レイヤーだけでなくMACレイヤーにも手を加え通信の効率化を図った」と説明する。MACレイヤーは、無線フレーム同士が衝突しないように、通信を制御する仕組みを規定するレイヤー。11nは11a/b/gにおける進化とは違い、このMACレイヤーが大きく変わっているのが特徴的だ。ちなみに11nのMACレイヤーは、無線LANの優先制御や通信の効率化を定めたIEEE 802.11eがベースになっている。