1995年12月、米マイクロソフトは当時のIT業界の常識では考えられない、驚くべき提携を発表した。米オラクルと米サン・マイクロシステムズ(現オラクル)などとブラウザーの開発・普及面で協力することを明らかにしたのだ。

 インターネット元年と言われる1995年。この年にマイクロソフトの今に至るまでの事業戦略が形作られた。それゆえに、マイクロソフトの今後を占うためには、1995年とその後の数年間に何があったのかを振り返る必要がある。

「不倶戴天の敵」と手を握る

 1995年当時、オラクルのラリー・エリソンCEO(最高経営責任者)、そしてサンのスコット・マクニリーCEOは、マイクロソフトを不倶戴天の敵として事あるごとにこき下ろしていたから、その両社とマイクロソフトが手を握ることなどは、あり得ない事態だった。実際、発表直後この3社の日本法人も大混乱に陥り、メディアからの問い合わせに対して「発表以上のことは答えられない」と言うのが精一杯だった。

 さらに1年半後の1997年の夏、今度はスティーブ・ジョブズ氏が経営に復帰したばかりの米アップルに“救いの手”を差し伸べる。前任の経営陣の事業戦略の失敗により苦境に陥っていたアップルに対して、1億5000万ドルの資金を提供すると共に、Macintosh版のMicrosoft OfficeとInternet Explorer(IE)を提供することにしたのだ。

 そして、この年の8月、米国のボストンで開催されたアップルの「Macworld Conference & Expo」にマイクロソフトのビル・ゲイツ会長兼CEOがスクリーンを通して登場する。会場の聴講者からは大ブーイングで迎えられることになったが、この時のゲイツ氏は、マイクロソフトにとって最大の危機を乗り切った安堵感と、これまでのITベンダーがなし得なかったことをマイクロソフトが実現できるかもしれないという高揚感に包まれていたはずだ。