元ソニー社長の安藤氏と、元ソニーCIO長谷島氏の対談から、トップとCIOのパートナーシップのあり方を考える。第5回はトップが打ち出したビジョンを形にしていくCIOの役割について。

安藤 これは宣伝で言わせていただきますと、今でこそパソコンで音楽や画像、映像をダウンロードするのは当たり前ですよね。当時はそんなことは誰も考えてなくて、パソコンといえば生産性向上の道具で、工場とか事務所で使うもの。だからベージュか黒に決まっている。IBMは黒で、ほかはベージュとは白とか。


安藤国威ソニー生命保険名誉会長
東京大学経済学部卒業後、1969年ソニー入社。 1990年、ソニー・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング・オブ・アメリカ(SEMA)社長に就任。1996年、インフォメーションテクノロジー(IT)カンパニ-プレジデント就任。2000年6月 、ソニー取締役代表執行役社長に就任。2007年よりソニー生命保険取締役会長。 2011年より現職。写真:村田和聡
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安藤 そういう中にあって、ソニーが作るパソコンは、言ってみれば生産性とかは一切関係ありませんと。これは個人のクリエイティビティーと個人のエンターテインメントのためのパソコンですと。ですから最初はマイクロソフトの「オフィス」も入ってない。価格が高いから別になっているわけですよ。

お客様にすれば「え、パソコンなのにワードもエクセルも何もないの?」と思う。いやいや、このパソコンは使い方が違うんですと。それくらい明快に、我々は商品の差異化を打ち出したわけです。

 後になると他社が全部まねするようになりました。そういうことにどんどん先鞭をつけてやったのです。商品もオペレーションもビジネスモデルもまったく違うと。当時は本社トップにもなかなか理解してもらえませんでしたが。

ジョブズより先に発想していた?

 最近、日本からイノベーションが出ないと言われていますよね。イノベーションとインベンション(発明)はちょっと違う。VAIOはソニーらしいインベンションはないかもしれないけれども、イノベーションにおいてはすべて改革していこうと思っていました。ITカンパニーでやっていることは、今は異端みたいに思われているけれど、将来世界が変わった時にソニーを救うのはこのやり方なんだと、僕は強く信じていました。一種の使命感のように考えてやっていたわけで、自分のカンパニーが儲かるなんていうことよりも、やっぱり最終的にはソニー全体をどうやって変えていくか、ということが頭にあったわけですね。