元ソニー社長の安藤氏と、元ソニーCIO長谷島氏の対談から、トップとCIOのパートナーシップのあり方を考える。第5回はトップが打ち出したビジョンを形にしていくCIOの役割について。
安藤 これは宣伝で言わせていただきますと、今でこそパソコンで音楽や画像、映像をダウンロードするのは当たり前ですよね。当時はそんなことは誰も考えてなくて、パソコンといえば生産性向上の道具で、工場とか事務所で使うもの。だからベージュか黒に決まっている。IBMは黒で、ほかはベージュとは白とか。
安藤 そういう中にあって、ソニーが作るパソコンは、言ってみれば生産性とかは一切関係ありませんと。これは個人のクリエイティビティーと個人のエンターテインメントのためのパソコンですと。ですから最初はマイクロソフトの「オフィス」も入ってない。価格が高いから別になっているわけですよ。
お客様にすれば「え、パソコンなのにワードもエクセルも何もないの?」と思う。いやいや、このパソコンは使い方が違うんですと。それくらい明快に、我々は商品の差異化を打ち出したわけです。
後になると他社が全部まねするようになりました。そういうことにどんどん先鞭をつけてやったのです。商品もオペレーションもビジネスモデルもまったく違うと。当時は本社トップにもなかなか理解してもらえませんでしたが。
ジョブズより先に発想していた?
最近、日本からイノベーションが出ないと言われていますよね。イノベーションとインベンション(発明)はちょっと違う。VAIOはソニーらしいインベンションはないかもしれないけれども、イノベーションにおいてはすべて改革していこうと思っていました。ITカンパニーでやっていることは、今は異端みたいに思われているけれど、将来世界が変わった時にソニーを救うのはこのやり方なんだと、僕は強く信じていました。一種の使命感のように考えてやっていたわけで、自分のカンパニーが儲かるなんていうことよりも、やっぱり最終的にはソニー全体をどうやって変えていくか、ということが頭にあったわけですね。