「ブラック企業はIT業界では随分淘汰されたと思いますよ」。いわゆる“ホワイト企業”の大手SIerの経営者はそう語った。ある新春パーティの場で立ち話をした時のことだ。「その認識は甘いのでは」と言おうとしたが、おめでたい席で暗く険悪な話をすることもなかろうと思い直し、その人がいるテーブルを離れた。ただ、これからの2年は技術者が不足する。この企業を含め、SIerはブラック企業の“お世話”にならずに済むのだろうか。

 最近、社会問題化している「ブラック企業」だが、IT業界では四半世紀以上も前から続く根深い問題だった。ブラック企業とは一般に、従業員に低賃金で過酷な労働を強い、かつ平気で使い捨てにする企業を指す。もちろん「過酷な労働」は良くないことに決まっているが、IT業界ではプロジェクトの修羅場が避けられないので、それをもって決め付けるわけにはいかない。だが残りの二つで、それこそ“ブラック認定”してよい企業がIT業界には多数存在していた。

 本当に昔は酷かった。大手SIerといえども怪しいものだった。COBOL技術者へのニーズが減って久しい頃、ある大手SIerでは大口顧客の案件などで、一時的にCOBOL技術者が必要になったことがあった。若手のCOBOL技術者を育成していると聞いたので、その企業の幹部に「大きな仕事が終わったら、彼らはどうなるのですか」と聞いた。その回答は「その時ですか。辞めるでしょうね」というものだった。

 もちろん最近では、少なくとも大手、準大手クラスのSIer、さらに特定分野で高い技術力を持つソフト開発会社は労働環境の改善に努めた。今ではダイバーシティの観点から、女性が働きやすい環境整備にも努力してきた。プロジェクトが破綻してデスマーチになる恐れがあることを除けば、求職中の若者たちに安心して薦められる企業が増えてきたのは確かである。

 ただ、ブラック企業は一掃されていない。実は構造的に不可能である。まずIT業界におけるブラック企業の“原型”を示そう。例えばB社とする。このB社は開発プロジェクトの一部を孫請け、ひ孫請けでこなしている。当然、人月単価はプライムのSIerや下請けの受託ソフト開発会社などに比べて低くなるから、B社の技術者はSIerなどの技術者と似たような仕事をしていたとしても、かなり低賃金になる。