地味な業界で、普段はあまり話題になることが少ないITサービス業界が昨年末、久しぶりに注目を集めた。最大手のNTTデータをはじめ多くのSIerが、多発した不採算プロジェクトにより2013年度上期(4~9月)決算で減収を余儀なくされたのだ。私はこの件について何も書かなかったが、今思えば、言及しなかったのは失敗だった。なぜなら識者の分析があまりにも酷く、噴飯モノだからだ。これでは良からぬ方向にミスリードしてしまうので、遅まきながら少し言及しておくことにする。

 問題の2013年度上期決算では、6件の不採算プロジェクトが表面化したNTTデータと同様、複数の赤字案件が出たことを“告白”するSIerが続出した。いちいち社名を挙げないが、大手SIerだけでなく、中堅企業を顧客とする旧ディーラー系のSIerも複数の不採算プロジェクトを出すなど、“多発性失敗症候群”とでも呼べるトレンドがITサービス業界全体を覆った。中には「他社も赤字案件を多数出してくれたので助かった」と、あまりに正直な感想を述べるSIerの幹部も出る始末。まさに、みんなで渡れば怖くない状態である。

 ITサービス業界で不採算プロジェクトに沈むSIerが数多く出て、しかも各SIerが多数の赤字案件を抱えたのだから、これはもう個々のプロジェクトの失敗原因がどうのこうのといった話ではない。ITサービス業界全体の構造問題、あるいはSIerのビジネスモデルの問題として分析されなければならない。しかるに、ITサービス業界に詳しいはずの識者の分析は、「営業が無理をして受注した」、「技術継承がうまくいかずプロジェクトマネジメント力が衰えた」、「リスク管理に対して過信した」といった類のものばかり。

 もう噴飯モノである。多発性失敗症候群に対して、個々の症例を診断してどうするのか。ただ、嗤ってばかりもいられない。こうした個々の能力を問題視する分析は、「営業がバカだから」という営業悪玉論や、「SEよ、現場力を磨いて頑張れ」といったデスマーチを強いる精神論に容易に転化する。それでは単に営業や開発の現場の不幸が倍加するだけである。