仕事や人生において意思決定を下す際に陥りやすい罠を避けるため、「WRAP」と呼ぶフレームワークを紹介し、意思決定を補強するビジネス書である。WRAPとは、Widen(選択肢を広げる)、Reality(仮説の現実性を高める)、Attain(決断の前に距離を置く)、Prepare(誤りに備える)の頭文字を取ったもので、豊富な事例とともに解説されている。

 意思決定を下す際に陥る罠の一つは、視野の狭窄だ。私たちは、「二人の関係を良くするには?」と考える代わりに、「恋人と別れるべきか?」と選択肢を狭め、白か黒かを判断する傾向にあるという。この罠から抜け出すには選択肢を増やすことであると説き、機会費用(ある意思決定をした際に断念しなければならないもの)を考える、ある選択肢を消して新たな選択肢を探す、といった例を示す。

 私たちは直感的な信念を抱いた後、その信念を裏付ける情報を探す習慣があるという。これも罠の一つである。新車を買いたいと思っている消費者は買う理由は探すが、先延ばしする理由は探さない。この罠に陥らないためには反対意見を探せと述べる。米ゼネラルモーターズのCEOだったスローン氏は、会議中に「この決定に関しては、意見が完全に一致していると了解していいか」と質問し、全員がうなずくと「この問題について異なる見解を引き出し、この決定がいかなる意味を持つかについてもっと理解するための時間が必要。さらなる検討を提案したい」とさえぎったそうだ。

 また、例えば私たちがレストランを検索する際、できるだけスコアの高い店を選ぶように、平均を基準に物事を見る傾向にある。ここで本書は口コミをクローズアップすることも重要だと説く。クローズアップの方法の一つが、「ゲンバ(現場)」に行くこと。原書でも「genba」と書かれている。

 そのほか、一時的な感情の罠、自信過剰の罠に陥らないための事例も続く。これらの実践は、意思決定の大きな武器となるだろう。

 評者 村林 聡
銀行における情報システムの企画・設計・開発に一貫して従事。三和銀行、UFJ銀行を経て、現在は三菱東京UFJ銀行常務取締役コーポレートサービス長。
決定力!


決定力!
チップ・ハース/ダン・ハース 著
千葉 敏生 訳
早川書房 発行
1995円(税込)