ハードウエア性能の急速な向上、センサーをはじめとするM2M(マシン・ツー・マシン)技術やビッグデータ分析手法の高度化――。絶え間なく進化を続けるITは、新たなビジネスや市場を作り出す大きな底力を秘めている。

 既にその萌芽は現れている。人間の1000倍以上の速さで行うデジタル広告や株式売買の取引、完全な無人状態で運転を続ける自動車、ITで完全制御する野菜工場など、金融、広告、自動車、農業、建築、通信といった多様な分野で、ITなしには実現不可能な新市場が現実になりつつある。この特集では、中でも有望視される七つの分野を取り上げる。

 キーワードは大きく二つある。一つは「究極の高速化」。インターネット広告の分野で広がる電子的な“高速オークション”は、その典型例だ。ネット広告枠に広告を掲載する権利をコンピュータ同士が数ミリ秒で入札、落札するリアルタイム・ビッディング(RTB)に注目が集まる。

 マイクロ秒の単位で株式を高速に自動取引する高頻度取引(HFT)も代表例の一つ。実際、証券取引所の高速なITインフラが魅力となり、海外の投資家を日本に呼び込むことに成功した。東京証券取引所では月間売買代金の約半分をHFT関連取引が占める。

 もう一つのキーワードは「究極の自動化」である。ドライバーに代わってITが自動車の運転を肩代わりする自動走行車が代表例だ。自動車の発明から約250年を経て、クルマが「自ら動く」乗り物となろうとしている。2020年に開催される東京オリンピックで、現実になっている可能性もある。

 農業とITを組み合わせ、野菜を工場内で自動生産する植物工場も究極の自動化と言える。既存の露地栽培では作れない、新しい価値を持った野菜がITの力で生まれている。

 本特集で紹介する七つの分野から、ITの可能性をぜひ感じ取ってほしい。ITならではの新市場は今後も創造されていくに違いない。これをお読みのあなたはその担い手になれるだろうか。

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タイトル画像CG:木尾つぼね