事の本質は「場」に、そしてその場における人の「行動」に存在している──。本書は場を観察して本質を捉え、問題の解決策を発想する方法論である「行動観察」の解説書だ。

 行動観察から明らかになることは多々あるが、例えば「人は合理的に考えて行動している」ことは、事実と反していることがすぐに分かるという。多くの場合、論理よりも感情が勝り、人は感情を優先して行動しているのである。

 こうした行動観察には粘り強い観察が必要になるが、著者は「(粘り強い)日本人に向いている」と説く。また、すべてを言葉にしなくても相手の気持ちを慮ることができるのは日本人の特質だ。だからこそ我々日本人が行動観察を試してみる価値は大いにある。

 そのうえで著者は行動観察に必要な4つの要素を「F・I・R・E」と表現する。ファクト(事実)、インサイト(洞察)、リフレーム(枠組みの再構築)、そしてナレッジ(幅広い知見)である。行動観察の基礎を解説したうえで、後半では豊富な観察例を挙げる。

 例えば、愛犬を「犬の幼稚園」に通わせる人の観察。毎日節約生活を送っているが孫のためには出費を惜しまない人の観察、など。こうした観察から「高齢者は与えられるより与えたい」というインサイトが導かれたという。高級老人ホームで連日出し物を「与えられる」だけという既存の発想をリフレームすることで、新たなサービスを考え付くことができるかもしれない。行動観察は考えるヒントを提供してくれる。