日経情報ストラテジー編集部にとって、2013年は「データサイエンティスト」の取材に明け暮れた年だった。

 米グーグルのチーフ・エコノミストが「21世紀の最もセクシーな職業」としたとされるこの職業。ビッグデータに社会の関心が高まるなか、IT企業やネット企業はもちろん、一般の事業会社もデータ分析官の採用や育成に取り組み始めている。

 ジャガイモ栽培にデータを生かす取り組みがあると聞いて北海道に飛び、厨房運営をシミュレーションする外食チェーンがあると聞けば大阪に走る。全国通津浦々、分析官を探し回った1年だった。

「一過性の仕事ですよ」

 そんななか、「データサイエンティストは一過性の職業。数年すればいなくなりますよ」という衝撃的な言葉を聞いた。発言の主は西内啓氏。著書『統計学が最強の学問である』で統計ブームを巻き起こしたご当人は、「僕自身は絶対にデータサイエンティストを名乗らない」と語気を強める。

 データサイエンティストがいなくなる?? これから誰を取材すればいいの??? という筆者の動揺をよそに、西内氏は話を続けた。「今後はビジネスの世界にいる人の多くがデータ分析の基本的なリテラシーを身に付けるようになる。ツールが進化して、基本的なSQL文が書ければ、誰でも一通りの分析ができる」。

 “社員全員が分析官”という時代がくるのだという。「基本的なSQL文」が書けない身としては肩身が狭いが、ツールの進化が分析のすそ野を広げるという話は興味深い。日を置かずして、それを体現した事例に巡り合った。食材宅配大手のらでぃっしゅぼーや(東京・新宿)だ。

 同社ではクリックテック・ジャパンのBI(ビジネス・インテリジェンス)ツール「QlikView」を、商品企画や仕入れ担当の約70人の社員が駆使。億単位の購買データを顧客の年齢や嗜好で細分化し、「どの層がどんな商品を買って“いない”か」を分析している。そこから隠れたニーズを洗い出し、ヒット商品開発につなげた例も出てきているという。

 「何度もBIツールの導入にトライしてきたが、価格や使いにくさで実現しなかった。軽くて直感的に使えるツールが出てきたことで、分析人材が増えた」と経営企画部の木船信義マーケティング課長は話す。