連載第4回では、プライベートDMPを活用した広告配信について考察してみたい。前回(第3回)はプライベートDMPを活用したデータドリブンマーケティングにおいて期待される4つの領域についてご紹介した。今回はその中でも特に「広告配信」について取り上げる。

プライベートDMPが広告配信を変える2つの観点

 プライベートDMPは顧客の属性・行動を網羅的に把握できるため、DSPや外部のデータセラー型DMP等と連携することで、最適なターゲットに、最適な掲載場所/クリエイティブ/タイミングによる広告配信を実現する基盤となる。結果として、主に顧客獲得に関わるKGI/KPIの効率的かつ効果的な達成に貢献する。

 具体的には「リターゲティングの進化」と「オーディエンス拡張の進化」が期待される。

 リターゲティングとは、サイトに来訪し離脱したユーザーに再来訪を促すために、外部メディアで広告を出すことを指す。技術的には、該当ページごとにリターゲティングタグを設置することで、該当ページに来たユーザーに対してのみ広告を配信できる。

 しかし、化粧品のECサイトで、「スキンケア(カテゴリトップ)⇒洗顔(サブカテゴリトップ)⇒トライアルキット(商品詳細ページ)」を閲覧したユーザーに「スキンケアなら●●」「洗顔なら●●」「トライアルキット●%オフ」といったリターゲティング広告をすべて配信するのは、ユーザーには歓迎されず、広告コストもかさむため、あまり得策ではない。

 一方、プライベートDMPはPV単位ではなく、ユーザー単位ですべての情報を集約したセグメント化が可能である。例えば、「スキンケア(カテゴリトップ)⇒洗顔(サブカテゴリトップ)⇒トライアルキット(商品詳細ページ)」を閲覧したセグメントであっても、下記の追加情報が把握できた場合、

セグメント1: 洗顔配下の洗顔石鹸・洗顔クリームなど別の商品詳細ページや問合せページの閲覧も同時に見られた。

セグメント2: トライアルキット(商品詳細ページ)の滞在時間が3分以上あり、カート投入までしたものの離脱した。

セグメント1に対しては、「洗顔の悩みを解決!」、セグメント2には「3日以内に購入するとトライアルキット20%オフ」といった最適なリターゲティング広告を出せるので、広告配信効果が高まることが予想される。

オーディエンス拡張の進化

 オーディエンス拡張とは、サイトに訪れたユーザーと似たような行動をしていて、まだサイトに訪れていないユーザーをアドネットワークの中から探し出し、ターゲティングして配信する手法を指す。

 従来のオーディエンス拡張は、広告配信会社が有するアドネットワーク内で、広告主サイト内のリターゲティングタグを踏んだユーザーAと類似した閲覧傾向を有するユーザーBに対して行う手法であった。

 しかし、リターゲティングタグを前提としたPV単位の定義であったため、オーディエンス拡張の精度に課題があった。

 そこでプライベートDMPと外部データセラー型DMPの連携によるユーザー単位のオーディエンス拡張が注目されている。プライベートDMPに集約されている既存顧客の属性・クッキー情報を広告配信会社や媒体系サイトなど外部のデータセラー型DMPのクッキー情報の重なるユーザーを分析することで、「既存顧客に類似した潜在顧客」を推定することができる。 そしてその潜在顧客層に対してのみ、広告配信を行うことも可能となり、効率的かつ効果的な顧客獲得を実現する。

 例えば化粧品会社のECサイトでトライアルキットを購入したクッキー情報と外部データセラー型DMPのクッキー情報が重なるユーザーを分析した結果、「健康サプリメントに興味を持つ40代主婦」が有望な潜在顧客として推定された。その場合、該当する潜在顧客が健康関連サイトに訪れた際のみ、広告を配信することができる。

 こうした精度の高いオーディエンス拡張を実施できれば、投資効率の良い広告配信が実現できる。

 次回はプライベートDMPを活用したデータドリブンマーケティング「OnetoOneマーケティングの実現」にご紹介する。

田島 学(たじま まなぶ)
アンダーワークス代表取締役社長
田島 学(たじま まなぶ)


早稲田大学政治経済学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て2006年4月にデジタルマーケティングのコンサルティング会社アンダーワークスを設立。