ここ数年「Software Defined ~」という言葉を頻繁に耳にするようになった。物理的なハードウエア装置ごとにバラバラだった機器管理や設定をAPI化し、ソフトウエアで管理できるようにする動きだ。ハードウエア資源を仮想化・プールし、管理を自動化するとともに動的かつ俊敏に変更できるようにする。

 ネットワーク機能をソフトウエアで制御する「Software Defined Network」(SDN)に始まり、ストレージ機能をソフトウエアで制御する「Software Defined Storage」(SDS)、データセンターのソフトウエア化を実現する「Software Defined Datacenter」など、既にインフラ業界全体が動き出している。

 最もよく知られているのはSDNだろう。始まりは、Martin Casado氏が米Stanford大学で書いた2007年の論文である。彼は「ユーザー側の視点に立ってネットワーク機器を見直した」と言っている。つまり、ユーザーがやりたいことは何か、ユーザーに提供しなければならない機能は何かを考えた結果、ハードウエアから管理・設定機能を切り離したというわけだ。これにより、メーカー独自だったネットワークスイッチやルーターなどの設定や管理を、ソフトウエアで定義できるようになった。

 やがて彼の研究はOpenFlowとして結実し、業界団体による標準化が進み、プロトコルやAPIが公開されオープンソースとして急速に普及した。現在、多くのメーカーからSDN対応製品がリリースされている。

 同様にストレージ分野でもメーカー各社がSDSという言葉を使い始め、ストレージのソフトウエア化戦略が次々と発表されている。ストレージそのもののソフトウエア化や、ストレージをソフトウエアで集中制御する概念のことをSDSと呼んでいる。メーカーによってSDSの指すものは異なるが、共通しているのは、ストレージの物理的な構成とは関係なく、アプリケーションからポリシーに基づいてストレージのSLA(Service Level Agreement)を設定・管理できるようにする点だ。

 これら「Software Defined Everything」の動きは、ITエンジニアにどのような影響を与えるだろうか。まず、インフラエンジニアに求められるスキルが大きく変わる。これまではハードウエアの設置と監視、維持管理が主だったが、これからはインフラのソフトウエアエンジニアにならねばならない。インフラのポリシーやSLAを正しく設計し、素早く実装していくことが主務となる。

 また、インフラエンジニアの重要性は増していく。これまでインフラを担当するエンジニアの重要性はあまり大きく取り上げられなかったと思う。ハードウエアはどんどんコモディティー化していくので技術的な差異化が図りづらくなり、さらにクラウドの進展でインフラエンジニアの存在意義すら問われかねない状況であった。

 しかし、存在意義が薄くなるというのは間違いだ。Software Defined Everythingにより、インフラ変更が俊敏にできるようになる。それは情報システムのアジリティーを高め、企業の競争力を増すことにつながる。優秀なインフラエンジニアのいるIT現場は強い。インフラエンジニアがビジネスに大きく貢献できる時代が来た。

漆原 茂(うるしばら しげる)
ウルシステムズ 創業者兼代表取締役社長。2011年10月よりULSグループ代表取締役社長を兼任。大規模分散トランザクション処理やリアルタイム技術を中心としたエンタープライズシステムに注力し、戦略的ITの実現に取り組んでいる。シリコンバレーとのコネクションも深く、革新的技術をこよなく敬愛している