本誌読者の中で、「顧客」「消費者」「ユーザー」の違いを明確に説明できる人はどれくらいいるだろうか。グローバルにビジネスを展開している欧米の大企業に対して、デジタルマーケティングのコンサルティングをしている著者は、あらゆる企業にとって重要なのは「顧客」だけでなく、見込み客、ブランドのファン、インフルエンサー、雇用者、求職者を全て含めた概念である「ユーザー」であると説く。現在成功している企業は、ユーザーに向かってビジネスを構築し、ユーザーの満足度を高めることで顧客基盤を伸ばし、組織を成長させている。このようなアプローチを採る企業のことを、著者は「ユーザーファースト企業」と呼ぶ。

 本書はユーザーファースト企業になるにはどうすればいいのかを、適切な事例を交えて分かりやすく解説する。具体的には、どのような組織体制を作り、どんな開発手法を用いて製品化し、どのようなマーケティングを展開して、そのためにふさわしいカスタマーサービスとはいかなるものかを説明、最後にユーザーファースト企業に「シフトする」解説で結ぶ。

 この中で、日本企業にとってポイントだと思えたのが組織体制である。著者はその組織を「同心円型の組織」と述べる。同心円の中心はユーザー体験(UX)を設計する専門家、エンジニア、経営陣で構成。これを「デジタル・コア」と呼ぶ。このデジタル・コアを利用し、「オーディエンス」に語りかける役割を担うのが「コミュニケーター」であり、そしてこのコミュニケーターの周囲にいるオーディエンスこそ、冒頭で述べた「ユーザー」にほかならない。

 こうした組織体制を理解した上で、ユーザーファースト企業になるためのデジタルメディア、UX、ソーシャルネットワークへの取り組み方が随所で論じられている。これらをどのように有機的につなげて、自社ビジネスに貢献するのかを、IT部門、マーケティング部門、事業部、経営層など様々な立場の人が本書を読んで相互に議論することをお勧めする。

 評者 甲元 宏明
大手製造業でシステム開発やIT戦略立案に携わり、2007年アイ・ティ・アール入社。シニア・アナリストとしてユーザー企業やITベンダーの戦略立案を指南する。
 USERS NOT CUSTOMERS


USERS
アーロン・シャピロ 著
梶原 健司/伊藤 富雄 訳
萩原 雅之 監訳
翔泳社発行
1890円(税込)