著者の1人であるアクセンチュアの工藤卓哉氏に、私は2013年に二度、インタビューしている。工藤氏の人となりに触れるたび、「日本のために働きたい」という彼の思いを、より強く感じることになる。

 工藤氏の経歴は華々しい。米コロンビア大学国際公共政策大学院で修士号を取得。さらにはカーネギーメロン大学でも情報工学の修士号を取得している。そしてニューヨーク市の政府統計ディレクターなどを歴任。現在はアクセンチュアで、アクセンチュアアナリティクス日本統括に就いている。

 米国での活躍が目立つため、もしかすると帰国子女なのかとも思えてくるが、生まれも育ちも日本。努力の末、2004年に単身、米国に渡っている。帰国したのは2011年。東日本大震災の直後だ。

 工藤氏の本当のすごさは、そのプロフィールではない。大切にしている「パッション(情熱)」だ。インタビューをすると、パッションの強さに圧倒される。

 工藤氏は「データサイエンスの力で日本の社会を少しでもよくしたい」と、誰よりも本気で考えている。そして立ち止まることなく、行動している。忙しい合間を縫っての本書の執筆も、工藤氏のパッションがそうさせたのだろう。書かずにはいられなかったと推察する。

 2013年はデータサイエンティストの必要性が声高に叫ばれた、最初の年になった。工藤氏はその第一人者として業界を引っ張っているが、同時に若い人材の育成に最初から目を向けてきた。本書のタイトルに「超入門」と付けたのも、おそらくは1人でも多くの若者に、データサイエンスに興味を持ってもらいたいからだ。

 どうしても、データサイエンス関連の書籍は内容が難しくなりがちである。だが本書は「超入門」なだけに、身近な話題に引き付けて、話を展開しようとする工夫が見られる。例えば、米アマゾン・ドット・コムのレコメンドエンジンを取り上げて、「アイテムベースの協調フィルタリング」について、データサイエンスの視点から分かりやすく解説を試みている。

 もちろん、初心者だけでなく、実際にデータ分析業務に携わっている人にとっても有用な情報は多い。なかでも第3章で取り上げた「構造化データサイエンスモデル『SDSM』」は初公開の内容で必見だろう。SDSMについては、巻末に詳細な付録も用意されている。