今回の投稿は医薬品開発などのライフサイエンス分野の話題です。この分野は、多額の投資が必要なのに対して規制が増えているため、投資対効果が見込みにくいという逆風が吹いています。ブランク氏は、この分野にも同氏が提唱するリーン・ローンチパッドのアプローチが適用できるという仮説をもって、この逆風にあえて立ち向かおうとしています。(ITpro)

 ライフサイエンス分野は、生産性の低下、規制の増加、そしてベンチャーキャピタル(VC)の逃避に直面し、嵐の真っただ中にいます。ここで言うライフサイエンスには、病気を直したりコントロールする医薬品開発の「治療学」、病気を見つけるための診断とそれを可能にする医療機器の「診断法」 、病気を治療したり進捗を把握する「医療機器」、そして健康維持のためのハードウエアとソフトウエア、携帯機器、アプリケーション、そして専用機器の大衆化を進める「デジタル・ヘルス」があります。

 しかし、ライフサイエンス分野のスタートアップ企業をより効率的に構築するのを支援することによって、その生産性を向上し、ベンチャーキャピタル(VC)の回避を阻止してみるというのはどうでしょうか。

 私たちは2013年10月から、カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で、ライフサイエンスとヘルスケア(治療、診断、医療機器とデジタル・ヘルス)のリーンローンチパッド・クラスを、経験あるVCおよびエンジェル投資家のチームと一緒に教えることで、この仮説を検証します。

それは最高の時代でもあり、最悪の時代でもありました

 過去60年間、病気の背景にある生物学の知識や、人命を延ばしたり助けたりする商用医薬品と医療機器を開発する科学と技術は、著しい躍進を遂げました。基礎科学的な発見からの医薬品や医療機器への転用が、ますます加速して起こっているようでした。

 一方、この60年間で、全米食品医薬品局(FDA)が新しい医薬品を認可するコストは低減するどころか、80倍に増加しました。そうです、医薬品を成功裡に開発し認可を得るのに、現在は60年前よりも80倍の費用がかかるのです。

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 ライフサイエンス分野のスタートアップ企業が必要とする資金の75%あるいはそれ以上が、治験と規制組織の認可を取得するために費やされます。製薬会社は、コストの重圧で四苦八苦しています。米国の医療機器のイノベーションは、国内でますます厳格になった規制環境が主な要因となり、海外に流出しました。

 同時に、治療、診断、関連機器分野を投資の格好の対象としていたVCは、この分野への投資から逃避し出しました。過去6年間で、この分野のVCは、投資資金を集められないため半減し、第1次投資資金を取得したバイオテクノロジーと関連機器のスタートアップ企業数は半数にまで落ち込みました。エグジットとしては買収が原則で、IPO(新規株式公開)は例外になりました。

 ライフサイエンス分野では「期間」「経費」「エグジットの困難さ」という3つが増大しましたが、インターネット、ソーシャル/ローカル/モバイルといった他の投資対象分野では、これらの3重要項目は桁違いに削減されました。ほとんどのライフサイエンス分野のエグジットは1億2500万ドル(約125億円)以下でしたが、他の分野のエグジットの評価額は急騰しました。投資環境が悪化したので、年金資金や機関投資家はVCに、ライフサイエンス分野、特にアーリーステージのライフサイエンス分野には、手を出すなと伝えました。

 何が起こっているのでしょうか。どうやってこの傾向を変えられるでしょうか。

 私たちは、少なくとも部分的にその答えを持っていると信じています。それを検証する実験を、2013年秋にUCSFで行います。