新しい会社組織や個人の仕事のやり方を考えるうえでの構造的な環境変化として、今回取り上げるのは「『大括り』から『小分け』への転換」です。

 前回解説した「作り手から使い手」への視点の転換に伴って、大括りで提供されていた商品やサービスがますます小分けになって、個々人のニーズに応えられるようになっていきます。

 座席の予約や楽曲の販売など、ICTによってユーザーの個別ニーズが次々と実現されていく時代が既に到来しつつあります。さらにアイデアを膨らませれば、ビジネスチャンスや働き方など、今後あらゆる身の回りのものに影響が出てくるでしょう。

ICTが実現するユーザーニーズの小分け化

 世の中の様々なものが「小分け」になってきています。例えば、楽曲の販売単位です。

 従来の「CD」という大きな単位でしか買えなかった楽曲が、電子ファイルのダウンロードであれば、1曲ずつ安く購入することが可能になりました。これで「不要な」ものまで、セットで余計なお金を払って買う必要がなくなってきています。

 飛行機や映画館、コンサートの座席予約も、一昔前までは、◯◯クラスとか△△席(SとかAとか)のレベルでしか指定できませんでした。それが最近のWeb予約では「この席」をピンポイントで指定できるばかりでなく、価格も一つひとつの席の付加価値によって異なるという形にまでなってきています。

 小分けの発想をお金の世界に適用したのが、マイクロファイナンスやクラウドファンディングです。株式取引の小口化というのも、同様の構図と言えるでしょう。これもICTの普及と高機能化によるところが大きいものの一例です。

 カーン・アカデミーなどが運営するWeb上の教育動画コンテンツに関しても、単に「学校に行かなくても勉強ができるようになった」という遠隔受講の他にもメリットがあります。カリキュラムが小分けになって、個々の生徒の進度に合わせて、受講の仕方を科目別にカスタマイズできるというのが、受講者である生徒にとっての大きな利点だと言えます。

 本来、カリキュラムというのは、個々の生徒の理解度に合わせて、個別に設計・提供されるべきものです。ところがこれも「提供者側の論理」(いちいちそこまで対応できない)によって画一的な集合教育になっているという背景を考えれば、ICTがその壁を打ち破りつつある一つの好例と言えます(もちろん、集合教育にはチームワークやリーダーシップを学ぶという「提供者視点」以外のメリットもたくさんあります)。

さらに「小分け」化は進展するか

 こうした流れは今後、さらに様々な分野に波及していく可能性があります。なぜなら、もともと私たちユーザーのニーズは一人ひとり異なっているのに、効率性などの提供者側の理由によって、やむなくある程度のまとまった単位で扱われている場合がほとんどだからです。

 ICTの発展で個別の管理が飛躍的に効率化され、こうした提供者側の論理が打破できれば、買い手側のニーズを満たされる方向に流れていくのは当然と言えます。