これまで「IT企業は顧客に体制図を出すな。SEの人月の提示や常駐をやめろ。それではSEは育たないし前向きにイキイキと働けない。それでIT企業のビジネスが伸びるのか」とIT業界の方々にしつこく訴えてきた。そして「その鍵はSEマネージャーが握っている」とも述べた。その鍵となるSEマネージャーがやるべきことは何か、それはただ1つ「体制図や人月を出さなくても売れるやり方を見つけ、覚悟を決めてそれを頑張ってやること」である。

 筆者は現役時代そう考えて覚悟を決めて真正面から体制図とSEの常駐の問題に取り組んだ。そして闘った。今回は当時筆者が何をどう考えどう闘ったか、それについて紹介したい。

「プロジェクトを安心して任せられる」という評価がもらえるように

 筆者はこの問題と取り組むに当たって次のように考えた。“お客様はシステム開発などのプロジェクトがきちっとできることが最も重要なはずだ。それも、部課長の方がハラハラドキドキしないでだ。お客様はその心配がなければ、販売時に体制図やSEの常駐をIT企業に要求されるわけはない”。筆者はそう考えた。

 そして次の5点に力を入れた。(1)提案時に「これならできる。危ない点はこれこれだ」と十分にそのプロジェクトについて詰める、(2)売ったSEにそのプロジェクトを担当させる、(3)開発時には危ない点を事前に予測し、早めにSEを投入する、(4)顧客と問題点を共有する、(5)顧客の部課長に適宜状況を報告する。

 それは、この5点を抜きにして“スキルだ、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)だ”などと言ってみても意味がないからだ。それでは顧客の部課長をハラハラドキドキさせるのが落ちで、決して体制図や常駐はなくならない。筆者はそう考えた。

 そのために、筆者は販売活動にSEをアサインした。自分自身も前面でそのSEを陣頭指揮した。またシステム開発時には、問題が起こりそうなとき、ピンチのときには顧客に言わずにSEを投入した。また顧客にやってほしいことは「これを頼みます」と要求もした。そしてこの連載で以前述べたチームワークに富む機動力のあるSE組織作りやプロジェクトレビュー、支援部門や協力会社に顔を売るなどいろいろな努力をした。

 また、「ぶら訪問」(7月12日の『SEマネージャーの約半分はひとりでは顧客に行けない』を参照)を行い、システム開発をしている顧客の部課長には「このプロジェクトの今の問題点はここです。こんな手を打っています。見通しはこうです。お客様もこの点はこうやっていただきたい」などと、プロジェクトの状況を話して質問にも答えたし、お願いもした。

 そしてときには「プロジェクトというものは体制図や常駐は意味がないです。SEが常駐して行うより、担当SEを中心にいろいろなSEが適材適所でやった方が上手くいきます」などと話して、体制図などについて部課長の理解を得ることも日頃から心がけた。

 そのほかにもいろいろなことをやったが、いずれにしても顧客に「この技術陣はしっかりしている。プロジェクトを安心して任せられる」と思われ、体制図を要求されないことを狙った。

 そのためにSEも筆者自身も汗を流した。その結果、多くの顧客でそれなりのことはできた。だが、そうはいかないこともあった。特にこれまでの慣習的なやり方をしている顧客や、顧客に物事を政治的に考える人がいる場合は、往々にして体制図などを要求された。そんなときは、とにかく「このプロジェクトは責任を持って間違いなくやります。すみませんが体制図の提示やSEの常駐はやりません。理由はこうです」と言って、顧客に納得してもらうしかなかった。そして手を変え品を変え、知恵を絞って闘った。

 次に3つの事例を簡単に紹介する。ケース1と2は筆者が勤務していた日本IBMの長年のユーザーのもので、ケース3は他社のユーザーに売り込んだときのものである。