新会社のKPI(重要業績評価指標)の設定もでき、ICT部隊はようやく平穏を取り戻すことができたかというと、答えは「ノー」である。ジョイントベンチャー(JV)としてのシナジー効果を出すための新規プロジェクトが次々と動き出し、そのほぼ全てにICTは関与しなければならなかった。

写真1●米沢工場でパンフレ生産の様子
写真1●米沢工場でのパソコン生産の様子
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写真2●米沢工場ではトヨタ生産方式を独自に導入している
写真2●米沢工場ではトヨタ生産方式を独自に導入している
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 なかでも社会的な注目度の高さでも、ICTの関与の重要さでも大きかったのが、山形県にある米沢事業場でのレノボThinkPadのテスト生産プロジェクトである。これは本当にエキサイティングなプロジェクトだった。NECの基幹工場で(かつてのIBM製品である)ThinkPadを作ることになるなど、数年前には考えられない出来事だ(写真1、2)。

 ThinkPadは言うまでもなく、レノボの看板商品であり、一方の米沢工場はNECのマザーファクトリーである。ThinkPadを米沢工場で生産するというアイデアに、社内外の期待は否応なしに高まっていた。

 しかし、ThinkPadを米沢工場で生産するには、どのような技術的課題があるのか、あるいはどのようなビジネス上のメリットや課題があるのかは、全く未知数だった。今回のテスト生産は、こうした知見を得るためのプロジェクトでもあった。

 いずれにしろ、ICT部隊の力不足で、本来は進められるべきプロジェクトが遅れたりダメになったりしては問題である。プレッシャーはかつてないほど大きかった。

 第1回で紹介したように、わずか5カ月でJVのシステムを構築したのに続き、今回はさらに短い3カ月で、米沢工場でのThinkPad生産プロセスとシステムを構築しなければならない。限られた時間で、業務プロセスのフローを作成し、現NECPCのプロセスとのギャップを明らかにして、新プロセスを業務部門と定義し、それに合わせたシステム改定を実施する必要がある。

 生産のICTについて簡単に説明すると、資材調達や在庫管理、生産工程管理の各システム、さらには営業部隊の受注システムや出荷物流システムといった様々なモジュールから構成される。当然、NECPC独自の要求によってカスタマイズされており、これらのシステムが受注から最短納期「3日」でのパソコンのBTO生産という、NECPCのパソコンビジネス最大の強みを支えていると言っても過言ではない。

 このように、NECPC固有のニーズに特化して作られたシステムで動いている米沢工場で、ThinkPadという、“他社”のパソコンを生産することは、一般に考えられている以上に容易なことではない。