何とか期日通りにスタートしたNECとレノボのジョイントベンチャー(JV)体制だったが、私が所属するICTチームにとって、「Day1(JV発足日)」はゴールではなく、むしろスタートだった。

 早速、中国レノボのICTチームと本格的な実務の打ち合わせを始めるため、私は中国・北京に飛んだ。その後、私は2年間で10回以上にわたり、北京を訪れることになる。

 北京出張に際し、正直なところ、不安でいっぱいだった。JVとは言え資本関係でいえば、レノボが株式の51%を握るため、マネジメントの主導権はレノボ側にある。しかもレノボのグローバルICT要員は独SAP向けのエンジニアだけでも、中国を中心に1000人以上もいる。

 対するNECパーソナルコンピュータ(NECPC)には、社内のICTシステムを開発・運用・サポートする部隊を全て含めても約30人しかいない。圧倒的なリソースの差がある。

51%を握るレノボ側にシステム移行を迫られるのか不安

 そんななかで、ICTシステムについては「無条件にレノボ側のシステムに移行を迫られるのではないか」と、私は北京に向かう飛行機の中でずっと考えていた。終始、憂鬱な気分だった。

写真1●初出張時の北京の様子
写真1●初出張時の北京の様子
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 中国出張は、この時が私にとって初めての機会だった。当時、「PM2.5」という言葉が世間をにぎわし、北京の大気汚染がテレビや新聞でも繰り返し取り上げられていた。

 現地に到着して、オリンピックスタジアム近くのホテルに滞在したのだが、近くにあるIBMのビルが霞んで見えない。これが霧ではなく、大気汚染であることをレノボのメンバーから聞いてびっくりした(写真1)。

 それ以上に驚いたのは、東京の首都高速道路をはるかに上回る交通渋滞と少々ワイルドな運転マナーである。私は車の運転が好きで、週末は家族でドライブを楽しむのだが、仮に北京駐在となっても車の運転は絶対に無理だと感じたほどだ。

 これから始まるレノボとの打ち合わせでは、どのような“エキサイティング”な経験が待っているのか。ますます不安にさせられたのを覚えている。

 ところがいざレノボのメンバーに会ってみると、意外にもそんな心配は必要なかったことに気づくことになる。

 レノボ側のICTメンバーとの初会合は、北京の海淀区にある、通称「レノボキャンパス」と呼ばれるオフィスで行われた。日本からは私を含めて2人が参加し、先方は約30人が応対してくれた。会議室に案内されると、CIO(最高情報責任者)であるXiaoyan Wang(シャオヤン・ワン)氏が私たちを温かく迎えてくれた。

 そして、彼女の第一声は「ワールドカップ女子サッカー、優勝おめでとう!」だった。