日本通運の野口雄志常務理事IT推進部長とITリサーチ大手、ガートナー ジャパンの日高信彦社長がビジネスイノベーションについて語り合った。「今年は挑戦の年」と年頭に宣言した野口氏は、「物流向けに新しいクラウドサービスを日本国内から始め、ゆくゆくはグローバルに広げていく」という構想を明らかにした。

 新しい時代に向かうための新システムを作り、そのプラットフォームに日本と海外の業務を載せていくという。

(構成は谷島宣之=日経BPビジョナリー経営研究所研究員、中村建助=ITpro編集長)


日高:物流ビジネスは物を動かす仕事が主で、トラックや船舶というハードウエアが重要な役割を占めてきましたが、ここ数年、もしくは10年ぐらいで大きな変化が起きつつある。様々なインダストリーの中でIT(情報技術)をうまく使える分野の1つになってきた。こう見ているのですが、いかがでしょうか。

野口:その方向へ行っているのは間違いありません。効率的な物流を確立した企業が勝ち組になる。そうしたサプライチェーンをどう確立するかが企業にとって重要です。そのサプライチェーンが今、形を変えつつあります。もともとITは必須だったわけですが、さらに深くITを利用する新しいサプライチェーンの考え方が出てきています。ここ数年のうちに、もっと変わっていくでしょう。

 考え方の変化とともに市場の変化があります。世界と日本を比べると、日本の工場がアジアに移っていったため、日本国内の貨物量は昭和40年代ぐらいの水準に戻っています。日本の中で動いている貨物量は少なくなってきています。

 目立つのはアジアですが、中でも中国から少し南アジアの方へシフトしつつあります。工場がたくさんできて貨物量が急増しているのです。ゲートウェイになって、日本を経由して貨物が動いているならいいのですが、それもありません。大げさな言い方をしますと、日本に貨物がないし、貨物が通らない。

グローバル物流を目指すしかない

野口 雄志氏
野口 雄志氏
日本通運常務理事IT推進部長
1971年、日本通運総務部通信課(情報システム部門)入社。82年に米国日通のロスアンゼルス支店システム課長。東京国際輸送支店システム統括課長、97年米国日通の米州地域情報システム課長、米州地域情報システム部長を歴任。2007年、日本通運IT推進部長に就任(現職)。米国プロジェクト・マネジメント協会(PMI)認定国際資格、プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル(PMP)を取得
(写真:的野弘路、以下同)

 では日本の物流会社はどうしていくか。我々も他の各社さんも「グローバル」といって、外へ出ようとしています。日本を中心とした物流ビジネスという考え方はもうできません。それならアジア中心かというと、そうでもない。どこかが中心ということではなく、まさにグローバル物流を目指そうとしています。

日高:世界各国の物流を網の目のようにつないでいくわけですね。

野口:ええ。そういう物流に変わりつつあります。サプライチェーンマネジメントの考え方、進め方が変わるとお話しました。個別最適というより全体最適のサプライチェーンになっていきます。

 流通超大手のような非常に強い会社が、それぞれ「うちはRFID(無線ICタグ)を使うことにしたから、納入する全商品にRFIDを付けてもらいたい」といって進める個別最適のサプライチェーンは、私の個人的な考え方になりますけれども、もう限界ではないでしょうか。

 強い会社ごとに固有の物流を作るというより、グローバルな3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)会社を利用していくようになるでしょう。そうなると、どのような物流サービスを提供できるのか、アイデアの勝負になってきます。

 そこがまさにITが生かせるところだと感じています。センサーの技術にしても、クラウドコンピューティングにしても、ビッグデータの利活用も、新たなサプライチェーンの中でかなり生きてくるでしょう。