写真●日本ハウズイングの浅野尚執行役員システム企画部長
写真●日本ハウズイングの浅野尚執行役員システム企画部長
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 マンション管理最大手の日本ハウズイングは2013年6月から、営業職や管理職向けにタブレット端末の導入を急ピッチで進めている。社外から基幹システムにアクセスし、必要な情報を取得できるようにすることで、顧客対応や現場での報告業務などのスピードと精度を高める。営業日報や進捗管理の仕組みも構築し、対応漏れの発生を抑える。複数の営業所で先行導入したところ、他の部門から「早く導入を」との声も多く上がっており、最終的には1000台前後を導入する計画だ。

 CIOとして同社の情報システム戦略を統括するのが浅野尚執行役員システム企画部長だ。マンション管理サービスの営業、そして支店長として足かけ12年の経験をもつ浅野執行役員は、「マンション管理へのニーズは変わってきている。マンションの維持管理だけでなく、例えば一人暮らしの高齢者をサポートするといった新しいサービスのニーズが高まっている。従来は踏み込まなかった居住者の専有部分に、入っていかざるを得ない場面も出てくるだろう。今後のマンション管理会社には、様々なサービスを効率よく高品質で提供するための情報インフラが必須だ」と話す。タブレットによる営業支援システムはその布石である。

 このような攻めの情報化が可能になった背景には、2012年3月の基幹システム「ハウネット」の全面刷新がある。浅野執行役員が人事部門から、システム部門に異動を命ぜられたのは、2009年7月。ハウネットの要件定義が始まって4カ月が経過した頃だった。社員15~6人、ベンダーからの派遣エンジニア4~5人の計20人ほどを率いることになった浅野氏だが、プロジェクトは大きな課題を抱えていた。「要件が膨れ上がり、ベンダーとの間に対立構造ができてしまっていた」と浅野執行役員は振り返る。

 このままでは良い成果は出ないと考えた浅野執行役員は、ユーザー部門、システム部員、ベンダー、コンサルティング会社など、多くの関係者に話を聞いた。プロジェクトを落ち着かせるためには、不満が何なのか、何がストレスの理由になっているかを知らなければと考えたからだ。その上で、問題があれば時には頭を下げ、代替案を出して説得するといった地道な交渉を重ねた。ベンダーの交代、新しい開発ツールや方法論の採用に踏み切るなど、紆余曲折はあったものの、2012年3月、新基幹システムハウネットは本稼働にこぎ着けた。

 このときを含め、今でも役立っているのが営業時代に培った交渉術だという。「当時はシステムベンダーの営業に似た立場だった。営業と実際のサービス担当者(SE)の言うことがときに食い違い、問題になるという構造も似ていて、どこか親近感を覚えたほどだ」と浅野執行役員。そんな経験を武器に、ときにはベンダーの痛いところを突くこともある。

 浅野執行役員がシステム担当になった当初に非常に驚いたことがある。それは「遅れて当たり前、コスト増も当たり前、というSI業界の感覚」だ。「要件定義をやっていると、確かにそうなりやすいのは分かるが、いつまでもそれでいいのかと常々感じている」という。

 だが、基幹システム再構築プロジェクト以降、発注者としてのスキル向上にも注力してきた。それ以前はベンダー1社にほぼ全てを依頼していたのが、プロジェクトの内容に応じてその分野を得意とするベンダーを探し、面倒でも個別に発注する方針に切り替えたのだ。「基幹システムのような複雑なシステムではさすがに難しいが、個別の業務システムであれば、RFP(提案依頼書)作成もまずまずこなせるようになってきた」(同氏)。

 現在同社では、財務会計システムや勤怠管理システムなど多くのシステム開発プロジェクトを進めているが、遅れているものはほとんどない。そんな浅野執行役員がベンダーに求めることは、何よりもレスポンスである。「当社も顧客に求められていることだが、とにかく答えが早く出てくるベンダーがベスト」と話す。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
毎年、暮れに経営会議などで中期的な事業計画を示すようにしている。翌年度と翌々年度について、システムの老朽化による更新や、新期開発などのタスクを説明し、予算化以前から課題認識を共有しておく。できる限りの準備をして、マンション管理業界をリードしていくのに必要な情報システムの実現に臨みたいと考えている。
◆普段読んでいる新聞・雑誌
日経新聞と日経産業新聞のほか、プレジデントやダイヤモンドなどのビジネス誌。システム担当になってからは日経コンピュータと日経ネットワークを購読している。「奇跡の営業」など、ビジネスマインド系の本はよく読む。小説では歴史ものが好きで、山本荘八の徳川家康(全26巻)を持っており、ときどき読み返す。
◆ストレス解消法
高校時代から続けているサーフィン。一人でふらっと行けるので冬以外は千葉や茨城の海によく行く。周囲に先駆けて始めたスノボも続けている。アクション映画を映画館で見るのも好きで、年間10本程度見ている。