全日本食品(東京・足立)の齋藤充弘会長は、この8月まで社長を務めた流通業界で広く知られた人物だ。同社は全国1800の中小スーパーや個人商店を組織化して、商品を卸すボランタリーチェーン。中小規模の加盟店向けに販売施策を含めた経営指導もする。

齋藤会長は自ら先頭に立ってデータ分析を進める

 齋藤会長は早くからデータの重要性に気づき、業界でも先端的な取り組みを続けている。トップ自らがデータサイエンティストというわけだ。代表例は、個別割引クーポン。顧客の属性と購入履歴から、お薦め商品を分析。購入したレシートに、その顧客に合ったお薦め商品の割引クーポンを提供する。そうして購買意欲を高める。

 だが、齋藤会長のデータ分析は販促の域に留まらない。得意客の再訪を促す「プラスアルファ」だけでなく、売れないというマイナスをプラスに変える“逆転分析”にも注力する。

 この背景には「長くデータ研究をすることで機会損失を減らせば、顧客と売上高を増やす効果が分かってきた」ことがある。小さく見える機会損失にこそ、大きなチャンスがある。そんな仮説は徐々に証明されている。

独自の視点でデータを生かす

 小売店ならどこでも手掛ける、食品の販促キャンペーン。ある時、ハム・ソーセージのPOP(店頭販促)を作って売り出したものの、購入客は期待ほど増えなかったという。担当者は「やめようか」というが、ここで齋藤社長(当時)は「リピート率」に注目した。客数は急増していないが、複数回買ってくれた顧客は多い。「食べた顧客はおいしいと思ってまた来てくれる」。こんな仮説を基に夕方に試食販売をすると、売り上げが40倍に増えた。その後は夕方に販促する定番商品となったという。データを分析する独自の視点が、成果を生む。

 齋藤会長はデータ分析において、自らの体験を大切にする。流通業界に専門家は多いが、全日本食品を詳しく知るのは自社と幹部と社員。経営や現場を知る自社の人材が分析力に磨きをかけることが大切と考えている。最近のテーマは、「来ない顧客」へのてこ入れ。リピート率のデータを基にして、どうすれば来てもらえるかを考えて、対策を打つ。

 一般に顧客の「期待」を高めれば、来店率の反応は高まる。そこで割引クーポンを配ったり、店の品切れを減らしたりすることに注力。その結果、購買単価も上がるという。「データ分析というと在庫を減らしたいなど店の利点を優先しがち。だが顧客目線でないといい結果は出ない。そういう姿勢も社内に定着した」と話す。