ビッグデータが話題になっている。米国でバラク・オバマ氏が大統領選挙に勝利したのも、その背景にはビッグデータの活用があったという。

 膨大なデータを集めて、それらを分析することで成果を得るというアプローチは非常に正統派で、有効な方法論である。ただ、ビッグデータをビジネスに活用するという観点から考えると、様々な誤解があるように思えてならない。

 話題のビッグデータとて、決して万能なわけではない。安易にビッグデータを礼賛するだけではなく、イノベーションを起こすためには、ビッグデータをどう活用すべきなのか、また限界があるとすればどういった部分なのかを真剣に考え理解しておく必要があるだろう。

 一方で、私の専門分野である「行動観察」という方法論にも注目が集まっている。

 行動観察とは、観察の対象者と一緒に過ごすことで、その人の行動をつぶさにウオッチし、様々な事実や気づき(ファインディング)を集めたうえで、本人も意識していない潜在ニーズや未共有のノウハウを抽出し、イノベーションを起こすための方法論である。

 もっとも、行動観察はビッグデータと違って、「n数」(観察する対象数やサンプル数)はとても少ない。その意味ではビッグデータと行動観察は、対極に位置する方法論であるともいえる。

 さて、ビッグデータ分析も行動観察も、そもそも何のために行うものであろうか。まずそこから確認しておきたい。

 「精度のよい情報を集めるため」だろうか。それとも「膨大な量の情報を集めるため」だろうか。はたまた「高度な分析方法を用いるため」だろうか──。

 いや、どれも違う。あくまでも「ビジネスの意思決定に寄与するため」である。私はそう考えている。

 時間や費用などのリソースを投入して実施する価値があるかどうかは、ビジネスにおける重要な意思決定にしっかりと寄与できるかどうかで決まる。この、「ビジネスの意思決定に寄与する」という観点から、ビッグデータ分析と行動観察の関係性と位置付けについて、この特集では考察していきたいと思う。 

 その前にまず、ビッグデータについて触れておきたいことがある。

ビッグデータについて、どちらが正しい言説か

 ビジネスにおけるビッグデータ活用については、いろいろと言われていることがある。以下の2つの言説は、どちらが本質的だろうか。みなさんも一緒に考えてみてほしい。

(言説1)
ビッグデータ時代には「因果関係ではなく相関関係が重要になる」「理由ではなく答えがわかれば、それで十分なのだ」 (書籍『ビッグデータの正体)』、ビクター・マイヤー=ショーンベルガー/ケネス・クキエ 共著、講談社)

(言説2)
「データ量が増えるだけなら、分析精度がいくらか向上するだけ」「ビッグデータを司るのは人間の思考力」 (書籍『会社を変える分析の力』、河本薫 著、講談社)

 ビッグデータについての解釈が、上記の2つの言説では明らかに違っているように見える。はたして、どちらが正しいのだろうか。

 そもそも、ビッグデータとは何だろう。『ビッグデータの正体』では、以下のように定義している。

 「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」。