本連載の前々回で、「CIOの仕事は育成にあらず」というテーマで、IT部門が企業内で存在感を示していく必要性について書いた。もう1つの仕事として重要なのはIT部門のケイパビリティーの定義だ。要は「何をするか、何をしないか」を考えるということだ。

 IT部門の役割は年々拡大しているにもかかわらず、人的リソースは増えていない。むしろ減少しているのが実情だろう。

 一方で、IT部門の役割を代替するサービスは増加の一途をたどっている。多くの企業で工数不足やコストダウンを理由にシステム開発や運用保守業務をアウトソースすることが当たり前になってきた。IT部門の機能の大半を外部のサービスに委ねることすら、可能な時代がやってきたといってもいい。

 しかし、IT部門がこれからも戦略的役割を担っていくのであれば、そのために自らが持つべきケイパビリティーをしっかり特定しておくことが重要だ。固定費の変動化やコストダウン、あるいは世の中の潮流といったもので安易に外部のサービスへの依存度を高めていくのはIT部門の存在意義を自ら否定することにもなるのだ。

 IT部門のケイパビリティーはデザインするものだ。私は、それをITケイパビリティー・モデルと呼んでいる。どのようにデザインするか?。

 まず、IT部門の機能、役割の棚卸から始めることを勧めたい。これまで果たしてきた役割を洗い出し、残すもの、新たに強化するもの、外部に委ねるものを整理する。それに沿って人材育成計画やソーシング戦略を構築する。当たり前といえば当たり前のことなのだが、実際にこうしたITケイパビリティー・モデルをベースにIT部門が戦略的にデザインされているケースは少ない。

 一方で、一筋縄ではいかない難しさも出てきている。例えば企画機能。IT戦略立案はコア業務だから残さなければと考えるのが普通だが、常にそうだとは言い切れない。米国では最近、ITをベースとした事業を企画する責任者としてCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を設ける企業が増えている。IT投資のプライオリティーを業績(特に売り上げ)への貢献と位置づけている企業であれば、デジタライゼーションの企画機能はCDOやそのスタッフが担い、IT部門はそれをサポートしていくという企画機能の協業体制も一つの選択肢である。IT部門はもとより全社の関連業務を洗い出したうえで、「何を担うのか」を決めていく必要があるということだ。

 ITの戦略的活用が企業の競争力に直結する時代に、IT部門が今までやってきたことの延長線上に将来はあるのか?戦略的役割を担うにふさわしいケイパビリティーを持っていないとしたら、存在する意味はあるのか?重い課題である。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
元ソニーCIO
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)1976年 ソニー入社。ブロードバンド ネットワークセンター e-システムソリューション部門の部門長を経て、2004年にCIO (最高情報責任者) 兼ソニーグローバルソリューションズ代表取締役社長 CEOに就任。ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長を経て、2008年6月ソニー業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任した後、2012年2月に退任。2012年3月より現職。2012年9月号から12月号まで日経情報ストラテジーで「誰も言わないCIOの本音」を連載。