オムニチャネルへの関心が高まっている。オムニチャネルは、実店舗やコールセンター、Webサイト、電子メール、SNS、口コミ、モバイルといった消費者と企業を結ぶすべての販売チャネルを統合して消費者にアプローチする戦略だ。

 ITインフラの進歩により、消費者は様々な販売チャネルで企業と接点を持つ。しかし、日本企業の多くは販売チャネルごとの個別最適にとどまる。オムニチャネルの仕組みの構築は急務だが、その際に「顧客体験」という視点を忘れではならない。具体的には、顧客によい体験を提供するという姿勢でオムニチャネルの仕組みをつくる必要がある。

 日本NCRは1920年、米国のNCRコーポレーションの日本法人として設立された。93年の歴史を持ち、米国系の外資系企業では最長だといわれる。1953年に日本初のセルフサービス方式のスーパーマーケットの開業をお手伝いした。現在、日本でのセルフレジのシェアは約7割に達する。

消費者の不満解消は重要に、調査で89%は他社にと回答

日本NCR 代表取締役社長 兼 CEO 諸星 俊男 氏
日本NCR
代表取締役社長 兼 CEO
諸星 俊男 氏

 親会社のNCRは主に流通システムや金融システムに強い。ATM(現金自動預け払い機)、セルフレジ、セルフチェックインキオスクのシェアは世界トップだ。こうした背景もあり、当社は10年前から「様々なチャネルを通して優れた顧客体験を提供する」というコンセプトを提唱してきた。その考え方はオムニチャネルと全く変わらない。

 オムニチャネルの仕組みをつくる際、当社が顧客体験を重視するのは「労力の割にはそれに見合うサービスを受けていない」という大きな不満が消費者にあるからだ。消費者は「行列に並ばせないでほしい」「私の欲しいものをいつでもどこでも簡単に見つけられるようにしてほしい」「重要な顧客として扱ってほしい」という思いがある。これに対し、企業は「低コストを維持しつつ成長を加速したい」「従来のシステムと新システムを統合したい」「高いセキュリティを保って法令を順守したい」という企業の論理を振りかざす。

 消費者意識を調査したところ、70%は日常的に時間が足りないと感じていた。また、86%はより良い顧客体験により多くの対価を支払ってもよいと答えたが、89%は残念な顧客体験をしたらライバル企業に乗り換えると回答した。消費者の不満を解消しないと、企業は見放される。それには、簡便に商品を買える仕組みと、顧客体験を改善する仕組みを用意しておく必要がある。その実現にITは大きな役割を果たす。

オムニチャネルでの「顧客体験」の変革
●オムニチャネルでの「顧客体験」の変革
[画像のクリックで拡大表示]

 簡便に商品を購入するには、セルフサービスが効果を発揮する。ITリテラシーの高い消費者やリピーターの多くは必ずしも対面サービスを求めていない。セルフサービスシステムを導入したり、スマートフォンとの連動を図ったりすれば、セルフサービスの実現はそう難しくない。

世界の有力企業も続々と、オムニチャネルを構築

 顧客体験の改善には、ロイヤルティーマーケティングを実践することだ。「自分だけを特別扱いしてほしい」という顧客の声を吸い上げる仕組み、すべての販売チャネルで一貫したサービスを提供する仕組みが必須。データベースの統合管理とデータ解析、販売チャネルへの情報配信などで、それは構築できる。

 NCRは数々の企業のオムニチャネルの仕組みづくりに関与してきた。世界有数のスーパー、英国のテスコもその1社。自社カードのTesco Clubcardを「お客様にありがとうをいうためのツール」と位置付け、ロイヤルティーが高い顧客に商品券やクーポンを提供し、ダイレクトメールをきめ細かく送付する。

 テスコは世界最大のネットスーパーTesco.comも展開する。2012年の売上高は約2500億円。モバイルアプリによるオンラインショッピングに加え、レシピから献立を決めて必要な食材を購入できるサービスなども導入する。SNSも活用し、Facebookで「いいね!」を付けた消費者は2012年時点で120万人に及ぶ。セルフレジの導入にも積極的で、セルフレジのみの店舗もある。

 オムニチャネルを構築した企業は金融界にもある。米国の銀行、ウェルズ・ファーゴは、窓口を廃止、24時間稼働するフル機能のATMを配置したneighborhood bankを実現した。対面サポートが必要な際には、少数の行員がタブレットでサポートする。

 販売チャネルが異なっていても、消費者にとっては1つの企業だ。オムニチャネルの構築が企業成長を大きく左右する。日本NCRは世界各国での経験を生かし、そのお手伝いをしたい。