技術の進歩に歩調を合わせ、これまでインターネットの利用は進化を続けてきた。今後10年で人、モノ、データ、プロセスなど世界中のありとあらゆるものがインターネットにつながり、相互に及ぼし合う作用により、かつてない大きなビジネスの機会が創出される時代が到来するだろう。これがシスコシステムズが提唱しているThe Internet of Everything(IoE、インターネットですべてをつなぐ)の時代だ。

 こう予想する背景の1つに人と人のコミュニケーションの変化がある。シスコは2012年秋に世界主要18カ国の18歳から30歳を対象に調査した。この世代では朝起きて、着替えたり、朝食を食べたりする前にスマホをチェックする人がほぼ100%、日本に限っても91%に達する。また、3人に2人がフェース・ツー・フェースで友人に会うよりもネットでつながる時間のほうが長い。

すべてのモノのデジタル化で、新しい経営や生活スタイルに

シスコシステムズ 代表執行役員社長 平井 康文 氏
シスコシステムズ
代表執行役員社長
平井 康文 氏

 ネットワーク面でも劇的な変化が発生する。シスコの予測調査では、世界のIPトラフィックは2012年から2017年にかけて年平均23%で増え、2017年には3倍の121エクサバイト(EB)になる。パソコンを経由するIPトラフィックの伸びは5年間で年平均14%にとどまるが、タブレットは104%、スマホは79%、M2Mは82%と急拡大する。

 IoEは、あらゆるモノがインターネットにつながるInternet of Things(IoT)を拡張した考え方だ。機器やモノがインターネットにつながるだけでなく、人と人がつながる手段の拡大、必要な情報を必要なタイミングで人やモノに提供するプロセス、意思決定を加速するためのデータの活用なども含んでいる。

 世界の99%のモノはインターネットにつながっていない。シスコの予測では2020年には25億人と、370億のモノがインターネットにつながる。すべてのモノがデジタル化すると、全く新しい経営や生活スタイルができるようになるだろう。

 IoEには、(1)記録する/追跡する、(2)監視する、(3)動かす(操作/制御/連動)、(4)見つける/探し出す、(5)先回りする、という5つの活用法がある。センサーデータを記録して医療ミスを防ぐ、製造装置の稼働状況をセンサーで自動監視する、といった使い方が可能になる。また、ソーシャルメディアで人がつくり出す大量データからマーケティングに活用できる知見を探し出す、渋滞情報の分析から最適な走行経路をドライバーに先回りして示す、といった使い方も現実のものになる。

 すでにシスコはIoEとの関連が深いフィールドエリアネットワーク(FAN)の実証実験を国内で実施している。北海道ニセコ町、大学などと連携実施したニセコ町国際ICTリゾートタウン化推進プロジェクト冬季共同トライアルがそれだ。シスコは極寒環境でも稼働するWi-Fiシステムの設計・設置・運用を担当した。野外で運用される機器とデータを無線でやり取りする仕組みは今後、スマートグリッドなどでも活用されていくだろう。

インターネットオブエブリシングの実現へ
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日本で76兆円を創出、最大はイノベーション

 シスコの試算では、IoEによって2013年から2022年までの10年間に生み出される世界の経済価値は、およそ14兆4000億ドルに達する。このうち、日本国内で生まれる経済価値は約76兆1000億円で、内訳はイノベーションで23兆9000億円、顧客サービスで21兆3000億円、サプライチェーンと物流で18兆1000億円になる。

 IoEを支える基盤技術の例として、フォグコンピューティングとゾーン型防御を紹介したい。

 フォグコンピューティングは分散コンピューティングの一方式で、ネットワークエッジ(端末)での処理とクラウドコンピューティングを融合させた形態。最大の特徴は、いつどこにデータを送信するかを機器が自律的に決められることだ。フォグ(霧)のように必要なときに起き上がり、接続が無数の機器に広がっていく。

 もう1つのゾーン型防御は、セキュリティを確保するために、これまでのような機器ごとに守るマンツーマン型ではなく、サービス全体を守る形態。シスコはCisco Security Intelligence Operations(SIO)を通して、それを実現する。世界100万台以上のセンサーがインターネットトラフィックの35%をモニタリングし、600人を超える専門家が24時間365日の監視・分析を続ける。

 IoE時代のインターネットは、新しいライフスタイルを実現し、クラウドとの連携を深め、ビッグデータ創出の基盤となる。このワクワクする世界の構築の一翼を担っていきたい。