サイバーエージェントは1998年の設立以来、ネットビジネスの分野で成長を続けてきた。おそらく日本の上場企業の中で最も多くの新規事業に取り組んでいる会社だと思う。新サービスのアイデアを見つけるための仕組みと、アイデアを速やかに事業化するための仕組みがその原動力になっている。

新規事業プランコンテスト、優勝者には100万円の賞金

サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田 晋 氏
サイバーエージェント
代表取締役社長
藤田 晋 氏

 新規事業のアイデアを見つける代表的な仕組みとして、新規事業プランコンテスト「ジギョつく」がある。1年に1回、社員から新サービスのアイデアを募り、優勝者には100万円の賞金を出す。

 ジギョつくを始めたのは2004年のこと。当初はあまり盛り上がらなかった。しかし、アイデアを出すこと自体を高く評価したり、優れたアイデアを出した社員を新規事業の重要なポジションにアサインしたりするといったことを繰り返した結果、「応募しなければ損」という雰囲気が広がった。今では1回に800件を超える事業案が集まる。

 このほか、技術者が参加するアイデアコンテスト「モックプランコンテスト」を2012年から始めた。新サービスの試作品(モックアップ)をもとに入賞作品を決定する。

 ジギョつくやモックブランコンテストで出た新サービスのアイデアを実現可能なレベルに詰める必要がある。その役割を合宿形式の「詰め切りセンター試験」が担う。社員がチームに分かれ、選択式のセンター試験の問題に解答する要領でアイデアの実現方法を絞り込む。実現可能な段階まで詰め切ったチームほど高い点数がつき、チームの成績は合宿先の壁に張り出す。結果はブログなどのソーシャルメディアでも共有されるため、成果を出そうと社員は本気で挑んでくる。

 役員や事業責任者が集まる「あした会議」もアイデアを詰める制度の1つだ。かつては年に1回、今では半年に1回開く合宿形式の会議。新規事業の開始や子会社の設立といった重要な決定をする。

 社員が提案するジギョつくでアイデアを採点するだけではなく、幹部自らが頭をひねって新規事業や課題解決について考えなければならない、という観点からあした会議をつくった。

役員が新規事業案を競う、社員を選抜しチームを構成

 この会議では、幹部がリーダーとなった8チームで新規事業案を競う。その際、リーダーはドラフト会議の要領で社員を選んで6人からなるチームを編成する。リーダーはアイデア豊富な社員、有望な若手などを指名するので、社員は燃える。あした会議によって、幹部同士の競争意識を刺激すると同時に、社員同士の競争も促される。

 新サービスのアイデアを速やかに事業化する仕組みには「K点チェック」「信号制度」「ダカイゼン会議」がある。

 K点チェックは、新サービスの完成度が一定レベルに達しているかどうかを経験に基づいて評価する仕組み。ネットビジネスには「小さく生んで大きく育てる」というアプローチが適しているが、リリース時点で一定レベルを下回っていると、その後どんなに手を加えてもうまくいかない。この一定レベルを当社では「K点」と呼ぶ。

 K点を越えてリリースされたサービスについては、その後の改善度合いを信号制度でチェックする。サービスのクオリティーを赤信号(まだまだ)、黄信号(あと一息)、青信号(OK)でランク付けし、それに応じほかのサービスからの誘導をコントロールする。

 リリースしたサービスは、改善を繰り返しながら育てるが、ある段階に達すると伸び悩むことがある。その解決の施策がダカイゼン会議だ。これは打開と改善を組み合わせた当社の造語。社内のダカイゼンルームとして「打開の間」と「改善の間」という専用会議室を設置する。メンバーで会議の意図を明確にしながら、改善案と打開案を出し合うために利用する。

2年ごとに役員を入れ替え、社員と役員の目の色変わる

 事業を成長させるため人事制度にも工夫がある。CA8はその1つ。役員を8人と決め、2年ごとに8人のうち1~3人が入れ替わる。目的は役員一歩手前の社員のやる気を高めること。当社の役員は皆、30~40代と若いので、役員の顔ぶれが固定すると、社員のやる気をそぐ恐れがある。2年ごとに役員の誰かが席を譲ることで、それを防ぐ。実際、CA8を導入してから社員のやる気が高まったうえ、役員も大きく変わった。役員自身が任期中に成果を出そうと機能すれば、その影響は社内全体に及ぶ。

 新規事業を始めることには、多かれ少なかれ経営リスクが伴う。当社が次々と新サービスを投入できるのは新規事業の昇格・撤退ルールによるところが大きい。

 当社は、オリジナルの人材・事業育成プログラム「CAJJプログラム」を設け、事業をJ1~J5の5リーグに区分する。リリース当初はJ5からスタートし、粗利益が月に500万円を超えたらJ4昇格、3カ月平均の粗利益が1500万円を超え、営業損益が黒字化したらJ3昇格、四半期の営業利益5000万円達成でJ2、四半期の営業利益1億円達成で、晴れてJ1入りとなる。反対に2四半期連続で減収減益の事業や、リリースから2年以内に黒字化できなかった事業から撤退する。

 入社1~2年目の社員にも子会社の社長を任せ、当社は若手社員の抜擢にも積極的だ。私自身、社会人2年目で起業しており、何度も痛い目に遭いながら成長してきた。そんな経験から多少のリスクを負ってでも、若手を責任ある立場に置くのは大事だと思う。これからも若手のアイデアをくみ上げ、たくさんの新規事業を育てていきたい。