今の日本はイノベーションの創出が思うように進まず、国際競争力も低下している。この打開には、過去の成功体験をかなぐり捨て、これまでの発想や考え方、価値観、フレームワークから脱却し、新しい価値の創出を目指す必要がある。

 その主体は、いうまでもなく人である。人によって構成される組織をどう変革していくのか。今日の日本企業にとって、組識改革は喫緊の課題だ。これまでの組織は過去のビジネスの進め方に最適化されている。それを再度、根底から見直し、組織間の壁を破壊しながら、ダイナミックな組織につくり替えなければならない。

 私自身、日本マイクロソフトに勤務する前に、日本ヒューレット・パッカード、ダイエーでそれぞれ社長を務め、組織改革に踏み込むことがあった。その際、私は3つのステップを踏んで組織改革に取り組んだ。

 第1ステップでは、従業員の当事者意識を喚起する。例えばダイエーでは、私が社長に就任した2005年当時、産業再生機構の支援下にあったにもかかわらず、従業員の危機意識は必ずしも強くなかった。再生のための方法を検討しようとする積極的な姿勢はあまり見られず、当事者意識の醸成が急務だった。

従業員5万人にアンケー卜、結果を冊子にまとめ配布

日本マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口 泰行 氏
日本マイクロソフト
代表執行役 社長
樋口 泰行 氏

 そのために取り組んだのは、従業員5万人にアンケートを実施し、一人ひとりがどのような会社にしたいと思っているか、どんな店にしたいと考えているのか、を徹底的に調査した。結果は「私がつくりたかったお店」という冊子にまとめ、すべての従業員に配布した。

 そうすることで、上から押し付けられたものではなく、自分たちの意見として、これから歩むべき方向を見つけ、進んでいく機運を喚起できた。これと並行して、すべての店長に直接電話をかけた。「一緒に頑張りましょう」と声をかけると、店長の大半が驚き、中には感激する人もいた。経営者の私自身、誠心誠意全力で再生に取り組んでいくというコミットメントも表明した。

 第2ステップでは、組織内での風通しを良くすることに力を注いだ。ダイエーでは、当時、野菜の鮮度や品揃えが悪いという評判が消費者に広まっていた。私の家族も同じような意見だった。野菜売り場はスーパーの顔ともいえる存在だ。改善に向け、やる気のあるメンバーを選定し、社長直轄で部門横断的なプロジェクトチームを立ち上げた。その際、年齢や性別、部門、役職を問わず、会社を良くするためであれば、誰もが言いたいことをきちんと言える風土づくりを進め、一体感の醸成に努めた。

 効果は短期間で表れた。ダイエーの野莱は鮮度がよいという認識が広がったのだろう。以前ならお客様は必ず野菜の鮮度を確認したうえで買い物カゴに入れていたが、手に取った野菜を特段確認することなくカゴに入れるように変わった。

成功体験を横に展開、組織改革を広める

 第3ステップでは、第1ステップと第2ステップを通して生まれた新しい成功体験、成功ストーリーをほかの局面にも横展開していく。組織改革を広め、事業拡大に向けてチャレンジする風土を醸成する。同時に表彰式やパーティーを通し、従業員のモチベーション向上を継続的に展開することも大切だ。

 組織改革の成否のカギを握るのは、風通しの良い組織の実現にかかっている。その重要な役割をITは果たす。マイクロソフトは2011年2月、社名を「日本マイクロソフト」に変更するとともに、本社をそれまでの新宿から品川に移転した。狙いの1つは、組織を超えた全社的なコミュニケーションの活性化にある。品川の新オフィスではフォーマルなミーティングや会議はもちろん、インフォーマルな立ち話なども含めたフェース・ツー・フェースのコミュニケーションを図る空間をつくる一方で、メールやインスタントメッセージ、ビデオ会議、さらには社内SNSといった数々の電子的なコミュニケーション手段の整備に力を注いだ。

コミュニケーションの活性化
●コミュニケーションの活性化
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 中でも、際立った成果を上げているのがマイクロソフトのユニファイド・コミュニケーション基盤Lyncの活用だ。このツールを使うことで、日本マイクロソフトはもちろん、世界にいる約9万2000人のグループ社員の在席状況を画面上で確認でき、必要に応じてチャットやメール、電話などの最適な連絡手段でコミュニケーションが図れる。

 日本マイクロソフトは、Lyncも含め、品川本社で社員が日ごろ使っている様々なテクノロジーを公開し、お客様が体験できるようにしている。新たな価値創造に向けた組織改革を加速するエンジンとして、ITを使った新しいコミュニケーションをぜひ参考にしていただきたい。