ICT(情報通信技術)の進化には3つの動きがあった。1990年代まではメインフレーム中心のコンピュータセントリックな時代で、目的は生産性向上。2000年代に入ると、パソコンやインターネットによるネットワークセントリックになり、ビジネスプロセスの変革を求めた。現在は、クラウドやモバイル、ビッグデータを活用するヒューマンセントリックな時代に進化し、人間の知の創造や行動支援を目指している。

 そうなると、今まであまり活用してこなかったビジネスのフロント領域や社会でICTの活用機会が増える。具体的には、ビジネスのフロント領域ではマーケティングやセールス、コラボレーションなどで積極的に使われ、社会関連では農業や医療・健康、教育、環境、交通などの新しい分野での活用が増えるだろう。

 そこで、富士通が目指すのはICTによって人々が可能性を最大限に発揮して創造的なイノベーションを生み出す社会だ。安全安心に暮らし、情報が新たな価値を生み出し、社会が持続的に成長していく世界を富士通は実現したいと考えており、これをヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティと呼ぶ。

3つのアクションを実行し、イノベーションを実現する

富士通 代表取締役副社長 CTO&CMO 佐相 秀幸 氏
富士通
代表取締役副社長 CTO&CMO
佐相 秀幸 氏

 その実現のため、富士通は3つのアクションを実行する。1つ目は人が活動する場でのイノベーションの実現。様々なビジネスや社会の現場で、ICTによるイノベーションを実現する。2つ目はビジネス・社会の情報装備。情報の活用で、地域や企業、業種の境界を越えて人を結び、革新を加速する。3つ目はEnd-to-Endで全体最適化。企業や社会のICT資産の最適化でイノベーションの基盤を整備し、全体最適化によって人と企業、社会をつなげるソリューションを提供する。

 近未来のビジネスと社会のイノベーションの姿として、富士通は6つのイノベーションコンセプトを打ち出している。(1)フィジカル+ディジタルのビジネスモデル、(2)情報が結びつける世界、(3)コンピューティングのもたらす新たな力、(4)リアルタイムの対応、(5)人のつながりと協働、(6)インテリジェントな社会基盤――がそれだ。

ビジネスと社会のイノベーションの姿
●ビジネスと社会のイノベーションの姿
[画像のクリックで拡大表示]

 (1)フィジカル+ディジタルのビジネスモデルでは、リアルとバーチャルを融合し、人の活動場所にICTを浸透させる。具体的な事例として、工場の生産ライン全体をシミュレーションし、特殊なメガネをかけると生産ラインにいるかのように確認できる当社のソリューションの導入を検討していただいている。

ペットの首輪にセンサー、新たなビジネスチャンスに

 (2)情報が企業と企業、企業と顧客、地域、業種といった境界を越えることで、イノベーションが創出できる。実際、「わんダント」という商品で犬の首輪に取り付けたセンサーで運動量を把握し、獣医師やペットショップなどをネットワークで結ぶことで、新たなビジネスチャンスが生まれている。

 (3)コンピューテイングのもたらす新たな力では、スーパーコンピュータ「京」がある。最新のコンピュータの処理能力が生み出す巨大なパワーは、生産現場の改革や災害対策、医療分野など多くの分野で期待されている。

 (4)リアルタイムの対応では、センサーによるリアルタイムの情報収集が代表的だ。当社の企業向けネットワークサービスであるFENICSII M2Mサービスを使えば、遠隔地に点在する管理対象物の情報をセンターに集約できる。この稼働情報を分析し、問題の早期発見や予防保守などプロアクティブな対応が可能になる。

 (5)人のつながりと協働では、ソーシャルネットワークがビジネスや社会の様々な領域にも浸透する。企業、社員、顧客を結びつけ、垣根を越えた共創の場を創り出し、ビジネスプロセスの革新、新産業の創出、地域活性化などを実現する。

 (6)インテリジェントな社会基盤では、スマートシティや農業でのICTの活用が好例だ。当社はシンガポールやサウジアラビアなど世界各国で都市を最適化するプロジェクトに参画するほか、農業分野では食・農クラウドのAkisai(秋彩)の運営、衛星を活用した食味分析に取り組む。

 富士通はICTの領域をインテグレーション、クラウドサービス、モバイル、ビッグデー夕、セキュリティ、モダナイゼーション、垂直統合システム、SDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーキング)という8つに整理し、事業を展開していく。

 当社の強みは、ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現に必要なICTをすべてそろえていることだ。

 コンピュー夕、フロントエンド、ネットワークといった技術がスパイラルし、ICTは今後も進化し、その3つの技術の上で新たな価値が提供できるようになる。富士通は3つの技術を基盤として押さえ、ICTを通して創造的なイノベーションを生み出せる社会の構築に貢献したい。