企業の経営層にとって望ましいITとは、ITの活用がビジネスの価値を高めてくれることだ。その要求は年々強まっている。

 しかし従来の情報システムの運用は、必ずしもビジネス価値という観点でマネジメントされたものになっていなかった。インシデント管理や問題管理といった安定運用のための仕組みはあっても、それがビジネスの価値にどうつながるのかという捉え方はできていなかったのだ。

itSMF Japan 理事長 富田 修二氏
[画像のクリックで拡大表示]

 ITの活用やその運用をビジネスの価値として捉えるには、「ITサービスマネジメント」の考え方が不可欠である。ITIL(IT Infrastructure Library)では、「サービスストラテジ」「サービスデザイン」「サービスオペレーション」「サービストランジション」「継続的サービス改善」といった領域から成るサービスライフサイクルでこれを定義している。

 日本でITILが注目されるようになった2000年代前半に脚光を浴びたのは、サービスオペレーション、つまりインシデント管理や問題管理などの実運用の部分だ。これは狭い意味での運用といえる。そして、サービスマネジメントの観点から今重要度が増しているのは、ビジネス価値を継続的に高めていくためのマネジメント体系を作ることだ。

 例えば、ITサービス提供の上流工程といえるサービスストラテジ。ここでは「サービスポートフォリオ管理」の考え方が不可欠になる。個別のシステムだけの運用を考えるのではなく、全社的なポートフォリオから、サービス提供の戦略を作り込む。サービスの優先順位を見極めたり、廃棄する必要があるシステムを明確にしたりする。

開発部門に深く入り込む

 ビジネス価値という観点に立てば、運用のことだけを考えていてもだめだ。グローバル化や企業合併といったビジネスの変化に迅速に対応するには、システム開発まで含めてサービスマネジメントを考えるべきだ。最近注目されている「DevOps」の考え方はその一つだろう。ITILでも、開発と運用を一連のライフサイクルとして捉えている。

 運用部門の担当者は、開発部門に深く入り込み、運用を考える必要がある。itSMF Japanの会員企業にも、そういう取り組みをしている企業が増えている。運用部門がシステム開発に関するレビューを実施し、OKを出さないと開発に着手できないルールを整備することなどだ。

 ITサービスマネジメントの体系は、すべてを一気に整備できるわけではない。まずは、自分たちのやっていることを知るところから始めてほしい。インシデント数や解決のスピード、エスカレーションのルールを確認する。そして、一つひとつのプロセスを明らかにする。このことは、運用部門の価値をアピールする手段にもなっていくはずだ。(談)