仕事で成果を上げるには一人ひとりの能力だけでなく、チーム力が欠かせない。そのチームで成果を上げるには「ほぐれていること」が大切だ。活気がない人が集まると、当然ながら盛り上がらないので、良いアイデアは生まれない。

 社内会議を思い出してほしい。沈黙を破ってアイデアを述べたのに、誰からも全く反応がなかったら、その場の空気に耐えられるだろうか。貴重なアイデアは重い空気の中に沈み、発言した人は萎縮して、もう二度と意見を言わなくなるかもしれない。淀んだ空気の中で不毛な時間だけが過ぎていく。

身体性を身に付けることで、場がほぐれて活気が生まれる

明治大学 文学部教授 齋藤 孝氏
明治大学
文学部教授
齋藤 孝氏

 アイデアや意見が出たのに、どうして押し黙っているのか。的確な批評や建設的なアドバイスをしようといった頭でっかちなことは考えなくてもよい。ビジネスは頭でやるような気がするが、それだけではない。

 最も大切なのは場を温めるための身体性を一人ひとりが身に付けることだ。そうするだけで、場がほぐれて活気が生まれる。それには話者の「目を見る」こと。そして「微笑む」「相槌を打つ」ことを忘れてはならない。

 目を見る、微笑む、相槌を打つの3つを実践することで、コミュニケーションを図れ、相手と1対1の関係を築きやすくなる。そうすることで、相手との信頼関係は構築する。大勢の人が参加する会議でも1対1の関係を築くことが大事だ。

 仮に参加者が10人いれば、相手の目を見て微笑んで、相槌を打つという1対1の線を10本つくればよい。1分間に1本の線をつくっていけば、10分で全員との信頼関係を築ける。話がしやすくなるし、相手の意見にも丁寧に耳を傾けられるようになるだろう。

 男性は生物学的に45歳を過ぎると不機嫌そうに見えるという宿命を負っている。上機嫌にしていて初めて普通に見える。特に微笑むことを意識してほしい。同じ相槌を繰り返すとかえって不快に感じられる恐れもあるので、相槌を10種類ほど用意しておくとよいだろう。

手を叩いて称賛の意を、内容は問題ではない

 会議では、声を出して笑うこと、手を叩いて称賛の意を示すことを心がけてみよう。内容がどうとかいう問題ではない。条件反射的に拍手を送ればよい。会話の中に相手の名前を入れることも大切だ。「齋藤君、それ、いいね!」。そうすれば、相手と1対1の関係を築きやすくなる。

 コミュニケーションは信頼関係の上に成り立っている。相手の存在を互いに認め合わなければ、コミュニケーションは図れない。相手をリスペクトする感情があれば、コミュニケーションはおのずと円滑に進む。

 声を出して笑い、手を叩いて称賛する身体を使ったコミュニケーションは作法である。そういうことができる人とできない人がいる、という性格の問題で片付けてはいけない。会議に参加することは、チームに活気を与える責任を負うことだ。それができない人は、船に乗っていながら漕がない人と変わらない。

 米メジャーリーグのトロント・ブルージェイズの川崎宗則選手を見習ってほしい。メジャーとマイナーを往ったり来たりする実力だが、地元では大変な人気者だ。彼が打席に立っと、観客は一斉に拍手を送る。レギュラーでもないのに人気を呼んでいるのは、川崎選手がムードメーカーだからだ。常に全力でプレーし、チームに活気を与える。そんな姿勢が文化や言葉の違いを乗り越え、地元ファンの心をがっちりとらえている。

 活気のある人はよく発言し、いいアイデアが飛び出す。アイデアを出さず、活気もないという人はいるが、アイデアを出すけれども活気がないという人はいない。漕がない人が1人いるだけで船の中は重苦しい空気が漂う。一人ひとりが場を盛り上げる責任を負っているという自覚を持ち、コミュニケーションに臨んでほしい。

情報伝達ミスを防ぐには、テンション、修正、確認

 会議に限らず、業務の指示や連絡といった様々な場面でコミュニケーションを図らなければならない。時には、行き違いなどによる情報伝達ミスが発生する。新社会人に話すときに私はそれを防ぐ3つの言葉を贈っている。「テンション」「修正」「確認」がそれで、3つを合わせて「天守閣」と覚えるとよい。

 チーム内で一緒に仕事をしたいと感じてもらうためには、テンションを上げる必要がある。何度も同じ失敗を繰り返さないようにするには、修正できなければならない。ミスの発生や誤解を防ぐには確認する習慣が社会人として欠かせない。

 確認を取る前には、まずは基本として人の話をじっくり聞き、その内容を把握しなければならない。聞いた話の内容を要約して話すことができて、初めて聞いたことになる。これは部下に仕事の指示をするときにも応用できる。

 指示し、相手が「分かりました」と返事をしてもそれで終わらさずに、伝えた内容をその場で復唱させるようにする。口に出して言うと、黙っているときより記憶に残る。自分で声に出すことで、宣言したような感覚になり、自覚も生まれる。その際、伝えるポイントは3つほどにとどめるべきだ。それより多いと、伝えることが散漫になるし、相手も覚えきれない。

 コミュニケーションは人間関係の基本である。たくさんの人と関わるビジネスでコミュニケーションを円滑に進めることは間違いなくプラスに働く。チーム力が高まり、伝達のミスはなくなり、誰もが気持ちよく働ける。身体を使ったコミュニケーションを心がけ、日ごろの仕事に役立てていただきたい。