ここ4~5年、システム運用の重要性を強く考えるようになった。さらに言えば、「運用」というよりも「ITサービス」の重要性だ。

 保険事業は、Webを使ってビジネスをすることが当たり前になり、ITサービスそのものが顧客に近くなった。従来、システムの担当者は営業担当者の後ろにいて現場のビジネスを支える役割だったかもしれないが、今はITサービスが現場そのものであり、システムの運用がビジネスをリードするようになっている。

東京海上日動システムズ 顧問 横塚 裕志氏
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 そうした変化の中、今後運用でやるべきことは大きく三つあると考えている。一つは、ビジネスの基盤としてシステムの継続的な安定稼働を実現することだ。この取り組みに終わりはないが、徹底してやっていく。

 二つ目は、システムのアーキテクチャーを、ITサービスを考えた作りにしていくことだ。例えば当社では、運用を担うITサービス本部が、求められる可用性などに応じた3種類のレベルの基盤を用意している。開発に最初から入り込み、運用を踏まえたアーキテクチャーを考える。

 ただし従来は、開発側が主導権を握り、必ずしも運用の観点からのアーキテクチャーを徹底できていなかった面があるのも事実だ。それを変えるため2013年4月から、「CAO(Chief Architecture Officer)」と呼ぶ役員をITサービス本部に置く。アーキテクチャーを決める権限は、開発側ではなくCAOが持つ。

ITサービスはビジネスを映す鏡

 やるべきことの三つ目は、ITサービスのログをビジネスに生かしていくことだ。すべてのビジネスがITサービス上にあるのだから、ログを見れば、販売代理店がどんな提案をして顧客が商品を選んだのかなど、ビジネスで起こっていることがすべて分かる。つまり、ITサービスは現場のビジネスを映す鏡といえる。

 しかし従来、この宝の山をビジネスに生かそうと考える人がいなかった。ビジネスは多くのシステムから成るので、一つのアプリケーションを開発する担当者は、全体を見ようとはなかなかならない。ビジネスサイドの担当者は、そういうデータがあることに気付けない。

 ではITサービスの担当者はどうかというと、そこまでは自分たちの仕事ではないと考えている。しかしこの役割を、ITサービスの担当者が担っていけばよいのではないかと思っている。ビジネス全体を見てログを分析し、ビジネスサイドやアプリの開発者に提示していけるだろう。

 運用の仕事は、トラブルが起こったら深夜でも対応しなければならないなど、負担感の大きい仕事かもしれない。しかし、ビジネスをリードしていく、あるいは基盤となるアーキテクチャーを作っていく、価値を生む楽しい仕事のはずだ。経営者としては、会社のエースに運用の仕事を任せるべきだと考えている。(談)

※インタビューおよび日経BPシステム運用ナレッジ2013年4月号掲載時の横塚 裕志氏の肩書きは東京海上日動システムズ社長。2013年6月より現職。