シスメックスは1968年に神戸で誕生し、血液検査などの検体検査に使う分析装置を手掛ける。社名はシステマティカル(SYS)とメディックス(ME)と無限の可能性(X)を合わせたもの。国内生産にこだわり、世界170カ国以上に製品とサービスを提供する。血球分析装置の世界シェアは4割に達し、海外売上比率は72.4%に上る。2013年3月期の連結売上高は1456億円で、営業利益率は15.0%。上場以来、13期連続の増収、12期連続の増益を続ける。

高い精度が必須の分析装置、データをオンラインで収集

シスメックス 執行役員 藤本 敬二 氏
シスメックス
執行役員
藤本 敬二 氏

 分析装置は、診断の支援や治療・投薬の効果を測定するため、常に高い精度を求められる。そのため、医療機関は毎日、精度管理用サンプルを使ってトレンド分析による内部精度管理を院内で実施するほか、他の医療機関の装置との間で精度管理データを比較する外部精度管理を年に数回実施し、装置の正確性そのものも検証している。

 賞をいただくことになったSNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)は、専用回線を通して当社のカスタマーサポートセンターとつながり、医療機関からの精度管理データを10分ごとに統計処理するものだ。分析装置の異常が判明すると、電話連絡などによって医療機関の臨床検査技師に知らせるほか、使用を停止してもらうこともある。

 SNCSを1999年に始めたのは、精度管理のためにどうしてもオンラインでデータを収集する必要性があったからだ。それまでは専用の試薬を顧客に送付し、結果を郵送で送ってもらい集計していた。時間を要し、最長で23カ月かかることもあった。

 データ収集のため始めたSNCSだが、その後、日々のデータをカスタマーサポートセンターに自動送信して異常監視と精度管理を行うオンライン予知ログをモニタリングして故障が発生する前に部品を交換するプロアクティブサポートといった様々なサービスを加えて現在の形になった。

 サービスが充実するにつれ、SNCSは収益を生み出す「3つのからくり」として機能するようになった。

 1つ目は異変を即座に察知することだ。ほかの装置の状況をSNCSを通して常時監視し、異変があった場合には最も近くにいるサービスエンジニアを派遣する。サービスエンジニアの位置情報はGPS(全地球測位システム)で把握しており、スケジュールも一元管理している。

医療機関のニーズを先取り、次は他社製品を含めて保証

 2つ目は顧客を深く理解することだ。装置の動作回数など顧客の利用パターンをSNCSで収集し、予防保守などに役立っている。高度な対応が求められる場合には、当社の社員と医療機関の臨床検査技師が同じ画面をリモート共有して効果的なサポートの提供もできる。

 3つ目は、成長の頭打ちの防止だ。装置の利用状況をもとに、医療機関の臨床検査室での動線短縮を狙い、機器配置を提案する事業も展開している。装置の最適配置は、SNCSに吸い上げられた情報なくしては実現できない。

 当社は医療機関のニーズを先取りし、製品やサービスを投入してきた。分析装置の販売から始まり、検査用試薬、検体を装置に自動的に送る搬送装置といった具合に、製品とサービスを充実させてきた。

 次のステップとして、臨床検査室全体のデータ保証サービスを検討している。今のところSNCSの対象は当社の装置だけだが、医療機関の臨床検査室では他社製品も使われている。すべての製品をSNCSにつなぎ、検査室全体で分析データを保証する仕組みを目指している。

 当社のミッションは「ヘルスケアの進化をデザインする」。その達成に向け、新たな価値の創造を続けていく。

グランプリはシスメックスの遠隔管理システム

 IT Japan Awardは、日経コンピュータに掲載したIT活用の事例から 優れたものを発掘し、成功のノウハウを共有するために創設した表彰制度。第7回となるIT Japan Award 2013の審査対象は、2012年5月10日号から2013年4月18日号までに掲載した約300本の記事。日経BPイノベーションICT研究所の桔梗原富夫所長を長とする委員会がグランプリ、準グランプリ、特別賞の計4本を選び、2013年7月3日にIT Japan 2013の会場で贈賞式を聞いた。

 グランプリに輝いたのは、シスメックスの「医療機器の遠隔管理により競争優位を実現した 『SNCS』」。医療機関向け分析装置をオンラインで品質管理するための仕組みを活用し、10期以上連続の増収増益を達成していることを評価した。

 準グランプリは、「日本初のカードレスATMなどを実現したシステム基盤」(大垣共立銀行)と「保守サービスなどを高度化・効率化したビッグデータ分析」(大阪ガス)。大垣共立銀行は独自のシステム基盤を活用し日本初のカードレスATMを実現した点を、大阪ガスはデータサイエンティス卜による業務改革の提案・実行が収益改善に結実した点をそれぞれ評価した。

 経営革新への貢献度と技術の先進性を表彰する特別賞は、日本調剤の「製薬会社向けの情報提供ビジネスを創出したビッグデータ分析」 。薬局に持ち込まれる大量の処方箋データの分析結果を情報として販売するビジネスモデルを考案したことが受賞理由である。

IT Japan Award 2013グランプリの贈賞式の様子
●IT Japan Award 2013グランプリの贈賞式の様子