世界の人口は現在70億人。予測では2050年には1.3倍の90億人に増える。人口増加によって、エネルギー需要は1.8倍、食料需要は1.7倍、水需要は1.6倍、温室効果ガスの排出量は1.5倍になるという。そうなると、安心安全な暮らしや効率的な資源配分を実現するインフラの必要性は一段と高まる。

 NECはそうした問題意識を持ち、社会ソリューション事業に力を注いでいる。この事業は安全、安心、効率、公平という4つの価値を社会に提供する事業と位置付け、2013年4月にグローバルセーフティ事業部をシンガポールに設置した。新興国のほうが安心安全に対する需要が今後高くなると判断し、日本国内にあえて拠点を置かなかった。

 グローバルセーフティ事業部では安心安全に向けた社会ソリューションとして、(1)市民サービス・入国管理、(2)法の執行・警察、(3)重要インフラ監視、(4)行政サービス、(5)情報管理、(6)危機・災害管理、(7)組織間の連携、の主に7つの領域でサービスを提供する。いずれの領域でもNECが取り組んできた技術を生かすことができる。

71年から指紋認証の研究を開始、精度の高さで30力国以上が採用

NEC 取締役執行役員常務兼 CMO(チーフマーケティングオフィサー) 清水 隆明 氏
NEC
取締役執行役員常務兼 CMO(チーフマーケティングオフィサー)
清水 隆明 氏

 生体認証と、その技術を生かしたIDソリューションはその一例だ。1971年から指紋による生体認証の研究開発を続けており、指紋照合精度の高さには定評がある。シンガポール空港のeパスポートシステム、南アフリカ共和国の住民管理システムなどにも採用され、指紋認証を応用したソリューションはすでに30カ国以上で使われている。

 国内でも生体認証の活用事例はある。例えば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの年間スタジオ・パスには当社の顔認証システムが採用されている。生体認証を利用することで、なりすましを防止できるだけでなく、顔パスで入場できて面白いという評価をいただいている。

 安全安心を実現するソリューションはほかにもある。すでにNECは宇宙と海底の両方から地球を見守る数々のセンサーやシステムを提供している。はやぶさやみちびきといった人工衛星にも使われているほか、緊急地震速報で利用されている海底地震観測システムの海底センサーも提供している。

 最近関心を集めているサイバー空間の安全安心にも当社は以前から力を注ぎ、セキュアなシステム開発手法、インシデント可視化ソリューション、セキュリティ監視ソリューションなどを開発してきた。2012年12月に世界各国の警察組織の連合体であるインターポール(国際刑事警察機構)と提携し、サイバー犯罪などの調査・分析を通して国際レベルでセキュリティの強化に取り組んでいる。

 NECが力を注ぐのはグローバルセーフティ事業に限らない。社会に新たな価値を提供すると期待を集めるビッグデータにも取り組んでいる。その活用のカギを握る分析エンジンでも世界トップレベルのものがある。例えば、大量のデータから通常と異なる動きを検知するアルゴリズムインバリアント分析は世界初の独自技術。3500個のセンサーを設置した原子力発電所では、センサーが生成する大量データを突き合わせ、通常とは違う挙動の発見に使用している。原発に限らず、大規模プラントの停止は大きな損失を招くので、ビッグデータを駆使した予防保守は大きな価値の創出が期待できる。

NECが考える新しい社会インフラ
●NECが考える新しい社会インフラ
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大量データから規則を自動発見、世界初の技術で自動発注も実用へ

 また、大量のデータの中からパターンや規則を自動発見する異種混合学習も世界初の独自技術だ。その応用例として小売業における需要予測が注目を集める。需要予測の精度が向上すると機会ロスと廃棄ロスが削減できるが、これまで満足できる精度を得られなかった。当社の異種混合学習は好成績を上げており、近く実用化を予定する。自動発注システムへの展開も視野に入る。

 ビッグデータの分析技術とともに、当社が重要視しているのがソフトウエアによってネットワークを制御するSDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーキング)だ。最大の特徴はハードウエアに依存せずソフトウエアによってネットワークを制御できること。それにより、ハードウエアでは難しかったダイナミックなネットワークの変更が可能になる。NECはSDNの世界標準、OpenFlowに対応したネットワーク製品を世界で初めて発表した。

 ネットワーク仮想化は安全安心の確保にも貢献する。通常、ネットワークトラフィック の多くを音楽や動画が占めている。SDNを利用すれば、災害時の安否確認のために音声通話や電子メールのデータを優先させるといった制御が容易にできる。 NECは社会的課題の解決を成長機会ととらえ、これまで蓄積してきたICT(情報通信技術)をフルに活用して世界中の社会インフラの高度化を支えていく。