今回から、新しい会社組織や個人の仕事のやり方を考える上での環境変化について考えていきます。始めに取り上げるのは、個人と企業との関係性の変化です。一昔前の「会社人間」は、すべての生活が会社中心でしたが、今日ではそうした価値観は徐々に少数派になり、それにつれて個人と会社との力関係も個人の位置付けが大きくなってきています。さらに一部の領域では個人と企業との関係が逆転しているところも出てきています。

 ICT環境を例に挙げれば、この20年間でその優劣は逆転したと言ってよいでしょう。この力関係の変化は働き方や組織のあり方に決定的な変化を与えると言えます。

逆転した個人と企業のICT環境

 携帯やスマートフォンがいまほど普及せずPCも高価だった90年代頃までは、会社のIT環境は個人のIT環境に比べて圧倒的な優位性がありました。当時既に「パーソナル」になったとは言っても、PCは数十万はする「高級品」であり、それを個人で所有しているのは一部のITリテラシーの高い人たちに限られていました。

 またネットワーク環境も企業のものは個人とは比較にならないほど高速で安定したものでした。従って「会社に行く」ことは、圧倒的に生産性の高い環境で仕事ができることを意味していました。「メールアドレス」の普及も大企業から始まりました。「同窓会の連絡先」のようなプライベートなものでも会社のアドレスが普通に使われていた時期がありました。

 ところがこの20年で個人のICT環境は飛躍的な発展を遂げ、スピードや機能という技術的な点のみならず価格も一気に下がりました。その結果、個人が持ち得るICT環境はネットワークなども含めて会社とほとんど遜色ないレベルになりました。

 さらに、セキュリティや個人情報保護などのためにガチガチに硬直化した企業システムでは、会社の外であるモバイル環境を容易に整備することも難しく、また最新のソフトウエアやアプリケーション、あるいはクラウドシステムなども入念な検証と管理指針を策定するまで社員は利用できないという点で、効率性や創造性に限って言えば、明らかに不利な側面が大きくなってきたのです。