ビジネスのグローバル化が進む中、IT業界でも海外の人的リソースを活用して開発を委託するグローバルソーシング(オフショア開発)を取り入れる企業や、自ら海外進出して事業を拡大しようとする企業も珍しくなくなった。

 しかし、グローバル市場でビジネスを展開するにあたっては、日本のやり方がそのまま受け入れられるとは限らない。オフショア開発と海外進出の2つの視点から、そのトレンドと考慮すべきポイントをガートナージャパン リサーチ部門 ソーシング バイスプレジデントの足立祐子氏に聞いた。

(聞き手は安井 晴海=ITpro副編集長、構成は藤本 京子=ITpro

オフショア開発は今、どのような状況にあると分析しているか。

写真●ガートナー ジャパンの足立祐子 リサーチ部門 ソーシング バイス プレジデント
写真●ガートナー ジャパンの足立祐子 リサーチ部門 ソーシング バイス プレジデント
[画像のクリックで拡大表示]

 ひとつ大きなトレンドがある。それは去年の秋頃から、オフショアを頻繁に使う日本企業はその範囲を拡大する傾向にあり、その一方で、あまり積極的でなかった企業は完全にやめてしまうケースが多くなったことだ。つまり、日本の企業の中でオフショア開発を利用する企業の割合が低下しているにもかかわらず、オフショアへの総支出額が増えているのだ。

 その要因は、日本企業のオフショア先として約8割を占める中国とのつき合い方を見直す動きがあるためだ。オフショアを拡大する企業は、ビジネス的にも中国やアジア進出に積極的で、これまでに築いた関係を深めようとする傾向にある。しかし、中国へのオフショアにはリスクが存在する。そのため、中国との関係がそれほど深くなかった企業は、取りやめてしまう傾向にある。

中国のIT人件費が急上昇

それは、日中間の関係悪化が原因か。

 その影響がないとは言えないが、最大の要因は人件費だ。中国国内でもITの需要が伸びているため、中国のIT人件費は消費者物価指数よりもずっと高い比率で上昇している。このままオフショアを続けていても、コスト高になってしまう恐れがある。

 データ保護も課題の一つだ。通常のアジア圏であればデータ漏洩を抑えることに注力すればよいが、中国の場合、政府がデータへのアクセス権を握っているため、どこまでオフショアすればいいのか見極めるのが難しい。ビジネスのコア部分までオフショアするには危険が伴うため、やめるというケースもあるようだ。

オフショアを中止した企業は開発を日本に戻しているのか。

 日本に戻すケースもあれば、自動化技術を採用するケースもある。最近はクラウドなどの技術も進化しているため、自動化を選択することが多いようだ。例えばレガシーマイグレーションなど、中国で労働集約的に行っていた部分をツールで自動的に行うケースが見られる。また、今後はテスト環境を自動化し、日本でテストを行うこともあるだろう。

中国以外の東南アジア地域が中国に取って代わることはないのか。

 ポスト中国として注目されているのはベトナムだ。コストが中国より安価であることはもちろん、人材育成なども中国やインドの過去の事例から学んで着実に進めている。ただし、IT人材は中国より圧倒的に少なく、漢字文化でもないため、中国に取って代わることは難しい。また、ベトナムは英語教育に力を入れ始めており、米国やフランスからのオフショアも受けている。このため、中国に比べてあまり日本に目を向けていないという側面もある。

 一方、東南アジア地域のデータセンターをマレーシアに置く企業も増えている。東南アジアの中ではシンガポールに拠点を構える企業が多いが、シンガポールは人件費が高くあまり拠点を拡大できない。そこでシンガポールと距離的に近いマレーシアにも拠点を設けるケースがあるようだ。