ここまでは、向こう2~3年以内に確実に求められる対応作業などを自治体や民間企業などの視点から整理してきた。

 政府はさらに2019年以降、マイナンバー利用の行政分野拡大や民間企業でのビジネス活用を推進する方針だ。民間連携が進めば今までにない「プッシュ型」「ワンストップ型」の各種サービスが実現する可能性がある。それが生活をどう変えていくのか、何が問題となってくるのか。将来像と課題を象徴する三つのシーンを具体的に挙げ、解説していこう。

シーン1
民間企業も
マイ・ポータルで情報提供

 2020年春、Aさんが昼休みに愛用の「スマートグラス(ヘッドマウントディスプレーを備えた超小型コンピュータ)」をかけて網膜認証すると、国のマイ・ポータルから通知が複数届いていた。最初の通知はAさんが所有する車のメーカーからで「リコール対象になった」とのことだ。

 舌打ちしながら次の通知を読むと、市役所からの「共働き世帯の子育て支援制度が利用できます」というお知らせだった。

 Aさんは引っ越し手続きをしたばかりだ。“市役所の窓口で転入届を出しただけで、運転免許や愛車の登録変更、水道や電気の手続きなどが全てマイ・ポータル上で簡単にできた。本当に便利になったな”と思いながら、さっそくAさんはマイ・ポータル内で子育て支援の申請に取り掛かった。

解説:画期的なワンストップに

 マイナンバー改革が着実に進めば、中期的にはこんな行政サービスや官民連携のサービスが実現する。政府は、新設するサイト、マイ・ポータルを通じて、主に四つのサービスを計画している(図1)。このうち自分の個人番号の利用状況を確認できる「(1)情報提供の履歴表示」と、年金の支払い状況など自分に関わる行政情報を確認できる「(2)自己情報の表示」は、2017年1月の運用開始当初から実現する。

図1●政府が計画するマイ・ポータルの四つの機能
図1●政府が計画するマイ・ポータルの四つの機能
(1)と(2)は当初から提供。政府はワンストップやプッシュ型のサービスも早期開始を目指す
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 「(3)ワンストップサービス」は、機関ごとにバラバラだった行政手続きを、オンラインまたは窓口で一度に受け付けるものだ。ただし引越し関連などの一部の手続きは窓口業務との併用が想定されている。例えば、引っ越しして市町村に届け出た後、マイ・ポータルで手続きすれば、公的保険や運転免許証、自動車登録などの住所変更が一度に済む(図2)。退職後に保険や年金の切り替えを一度に手続きできる「退職ワンストップ」も検討されている。

図2●引っ越しワンストップの概要
図2●引っ越しワンストップの概要
市町村での転入・転出手続きに加え、マイ・ポータルで住所変更の手続きを取る。他の行政機関や民間サービスでの手続きが省略できる
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 「(4)プッシュ型サービス」は、Aさんが子育て支援制度の案内を受け取ったように、個々の住民が利用できるサービスを行政側がオンラインで通知するものだ。車のリコール情報も、メーカーが国土交通省に届け出ると、Aさんのように陸運局の登録情報を通じて、通知を受け取れるようになる可能性がある。発火事故の可能性がある電気製品のリコールについても同様のことが可能かもしれない。