マイナンバー制度の導入で、これまで長年にわたって縦割りが続いていた行政機関の情報連携が始まる。政府が掲げる目標は大きく三つある。「社会保障給付と納税で公平性と公正さを高めること」「行政の効率化を進めること」「行政サービスの利便性を向上させること」だ。

 全国市長会で共通番号制度などに関する検討会の座長を務める佐賀県多久市の横尾俊彦市長は、「単なる制度対応で終わらせず、市民サービスを“待ち”から“プッシュ”に変えていく」と意気込む。横尾市長が目指す「プッシュ」とは、市民が利用できる手当てや諸制度を積極的に案内する「お知らせ(プッシュ)型」の行政サービスのことだ。個々の市民が利用できる手当てや諸制度をシステムで把握することが前提になる。

 以下では、マイナンバー改革で実現することがまず確実な社会保障・納税分野での効果から解説していく。ただし、国民が大きな成果を実感できるかどうかは、横尾市長が思い描くような、利便性向上の実現にかかっている。

給付申請で添付書類が不要に

 自治体のシステム間の情報連携が始まる2017年、市民が直ちにメリットを享受できるようになる代表的なサービスが、年金や失業保険など社会保障の給付手続きだ(図1)。現在は年金事務所やハローワークに持参する書類として、勤め先から源泉徴収票を、税務署や市町村から納税証明書を発行してもらう必要がある。

図1●マイナンバー制度で市民がメリットを享受できる例
図1●マイナンバー制度で市民がメリットを享受できる例
行政機関が情報連携することで、ワンストップ・サービスを実現できるようになる。住民の手間を軽減できるだけでなく、これまで年金や労災、失業保険など社会保障給付を受ける際に必要だった書類が大幅に減る
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 情報連携によってこうした書類が原則不要になり、免許証など身元証明書だけ提示すれば窓口ですぐに手続きを取れるようになる。年金事務所やハローワークがその場で国税庁や市町村の行政システムにオンラインで照会し、申請者の納税状況を把握できるようになるからだ。行政機関にある情報を市民自身がわざわざ各機関に赴いて集め、別の行政機関に渡すという手間が、情報連携でようやく省かれることになる。

 情報連携は、生活保護の不正受給防止にも役立つ。年金など社会保障の給付状況や、他市町村が把握している固定資産の状況などをオンラインで照会できるようになるからだ。

 消費税増税に伴い、低所得者の負担軽減策を実施する際にも、マイナンバー制度の下での情報連携が不可欠だ。対策案の候補の一つとなっている「給付付き税額控除(低所得者を直接支援する方式)」を実施するためには、個人の所得や給付状況などの情報を確実に把握する必要がある。あるいは別の対策案である「軽減税率(生活必需品などの消費税率を標準より低くする)」を適用する場合は、「インボイス(消費税額を記した取引証明書)に法人番号を併記して記録管理する必要がある」(日立コンサルティング)。